あの頃、きみと陽だまりで
「新太―……」
『はーい?』といつものように明るく応える声を想像しながら名前を呼ぶ。
ところが、名前を呼んでも中からは音も声もなにひとつ返ってこない。
「新太?」
あれ、どうしたんだろ……。
不思議に思い、そっとドアを開け、隙間から室内を覗き込んだ。
ひとりで過ごすには、充分すぎるほど広さのある畳の部屋。
大きな窓からぽかぽかとした陽が降り注ぐその部屋には、端に布団が畳んで置かれており、壁際には背の高い本棚がある。
ぎっしりと詰め込まれた本の古びた背表紙から、きっとそれは新太のおじいちゃんのものなのだろう。
“男の人の部屋”というにはあまり緊張感を感じさせないのはきっと、若い男性の部屋にしては飾り気のない感じから漂う“新太のおじいちゃんの部屋”という雰囲気のせいだと思う。
あれ、新太……いた。
部屋の角に置かれたテーブルで、パソコンを開いた体勢でこちらに背を向けている。
「なんだ、いるんじゃん。新太ってば」
ところが、声をかけても新太は反応を示さない。
ここまで反応がないってことはもしかして、とこっそりと部屋に入って近付く。
そしてその様子をうかがうと、新太はテーブルの上で頬杖をついた形で「すー」と眠ってしまっていた。
寝てる……。
彼の手元のひらいたままの本から、きっと本を読んでいるうちに寝てしまったのだと思う。
視線を本から彼の顔へと戻せば、その長いまつ毛は伏せられ、口がほんの少しあいている。