あの頃、きみと陽だまりで



陽が傾きかけた冬の午後。昼と夕のあいだの空に、びゅう、と冷たい風が吹いた。



「さむ……」



風に乱れる茶色い髪をおさえ、今日も海の方から『ザザン……』と鳴る波の音に耳をかたむけながら、細い住宅地を歩いていく。



細い路地を挟むように、ずらりと並んだ家々。

私からすればまるで迷路のような道も、新太たちこの辺りの人にとってはなんてことない道なんだろう。



初めて見る家

聞こえてくる人の声

どこか違う空気

それらはまるで別の世界に来た、と錯覚させる。



「……あれ」



フラフラと行くあてもなく歩くうちに、近くを歩くだけのはずが、気付けばよく分からない道に入り込んでしまったことに気付いた。



……仕方ない。海岸沿いに下りて、見通しのいいところから家の位置を探すしかないか。

それか交番かどこかで人に聞いてみるか……。

自分が帰る家を人に訪ねるなんて、なんともマヌケだけれど。



ふと見上げれば、早くも空には夕焼けが広がっている。

不安をあおるようなオレンジ色が少し怖くて、目を逸らした。



……早く、帰ろう。

今朝見た嫌な夢が頭の中にちらついて、自然と歩く足は速くなる。



< 53 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop