あの頃、きみと陽だまりで
陽が傾きかけた冬の午後。昼と夕のあいだの空に、びゅう、と冷たい風が吹いた。
「さむ……」
風に乱れる茶色い髪をおさえ、今日も海の方から『ザザン……』と鳴る波の音に耳をかたむけながら、細い住宅地を歩いていく。
細い路地を挟むように、ずらりと並んだ家々。
私からすればまるで迷路のような道も、新太たちこの辺りの人にとってはなんてことない道なんだろう。
初めて見る家
聞こえてくる人の声
どこか違う空気
それらはまるで別の世界に来た、と錯覚させる。
「……あれ」
フラフラと行くあてもなく歩くうちに、近くを歩くだけのはずが、気付けばよく分からない道に入り込んでしまったことに気付いた。
……仕方ない。海岸沿いに下りて、見通しのいいところから家の位置を探すしかないか。
それか交番かどこかで人に聞いてみるか……。
自分が帰る家を人に訪ねるなんて、なんともマヌケだけれど。
ふと見上げれば、早くも空には夕焼けが広がっている。
不安をあおるようなオレンジ色が少し怖くて、目を逸らした。
……早く、帰ろう。
今朝見た嫌な夢が頭の中にちらついて、自然と歩く足は速くなる。