透明な子供たち
母、父と一緒に兄が帰ってきたのは、夜の八時を過ぎた頃だった。
兄の目は、泣いたのか凄く腫れている
玄関で迎える華那子の目を見ないように、わざと下を向き腫れた目を見られないように俯いている。
華「おかえりなさい…」
ただならぬ雰囲気に、華那子は小声でみんなを迎える
そっちとこっちの空気をキリキリと鋸で削る音が聞こえた気がした
父「秋良、お前は飯抜きだ。部屋に行ってろ」
いきなり、父が怒鳴った
兄はまた泣き出した。その時は私もすごく怖かった。普段は温厚な父が、特に可愛がっていた兄に向かって怒鳴るなんて考えられない事だったから
背筋を丸めた兄は部屋に閉じ込もると、母はコンビニで買ってきたお弁当を、一つずつ電子レンジで温めだした。
チン、チン、チン…寸分狂いも無い器械が奏でる音は、無言のリビングに良く響く。
電子レンジから飛び出して、そのまま向かいの壁までスンっと飛んでいってしまうような器械音
どれがいい?先に選んでいいよ。テーブルに並べられた3つのお弁当の中から、好きなものを選ばせてくれた
華那子は、野菜が嫌いだ…だから何の迷いもなく焼肉弁当に手を伸ばした