あの時君は、たしかにサヨナラと言った
話がだいぶ長くなったけど、この家に住むようにすすめてくれたのはカンペーちゃんだった。

カンペーちゃんの家にお世話になって5日目の夜。おもむろにカンペーちゃんは切り出した。

「あのね、武藤君。君、これからどうするつもり?」

ついにきたと、俺は、うなだれた。

また、いえなき子になってしまう。

「行くあてはあるのかい?」

あてなど無かった。新しいアパートを借りるにはまとまった金が必要だ。でも、俺にはそんな金がない。

「もし、君さえよければだけど…」

うつむく俺に、カンペーちゃんは切り出した。

「よかったら、住む家を紹介しようと思ってね」

それが、この白い家のことだった。

3LDKの一軒家。庭付き、駐車スペースあり。敷金礼金なし。家賃は光熱費込みで二万円。

そんな美味しい話があるだろうか?

まさか曰く付き物件じゃなだろうかと疑ったが、そんなことはないとカンペーちゃんは言い切った。

「オバケは住んでいないけど、他に住民がいる」

「住民?それって下宿ってこと?」

「いいや。今風に言うなら、そう!シェアだね!」

「シェア?」

「ああ。ルームメートってことになるね」

ルームメート…。

正直、抵抗はあった。知らない奴と住むなんて。もしかしたら、おかしなやつかもしれないし。

でも、俺に選択の余地はなかった。

すぐにでも雨風をしのげる家が必要だったのだ。

雨風どころか、そのとき外は猛吹雪だった。
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