あの時君は、たしかにサヨナラと言った
スポーツバックを肩からぶら下げ、知り合いの家を泊まり歩く生活はそう長くは続かなかった。
初めのうちは同情して泊めてくれた友人たちも、やれ彼女が泊まりに来るとか、女が来るとか、恋人が来るとか…。
とにかくそんな理由でやんわりと追い出され、だから俺は、金の続く限りマン喫で暮らし、とうとう風邪をこじらせ店でぶっ倒れた。
新しい部屋を借りるには金も保証人もなく、実家の両親も頼れない。
なぜなら、若かりしころ、家族(両親と兄貴がいる)にさんざん迷惑をかけた俺は、半勘当状態なのだ。
ありきたりだが、厳格な両親(父は小学校の教頭で母親は私立校の音楽教師だ)の間に生まれた優秀な兄とバカな弟というのが我が家の家族合成で、両親の期待と愛情を一心に受けて育った6つ歳上の兄は、常に成績は上位を争い、地元で一番頭のいい高校から有名私立大に進学し、留学もし、有名私立校の英語教師という道を歩んだ。
一方俺はというと、常に成績は下からトップ3を争い、地元で一番バカな男子校を自主退学し、フリーターを経て、せめて高卒の資格くらい取ってくれと母親に泣かれ、それで、定時制高校に通いながら居酒屋でアルバイトをしている最中美咲と出会い、なぜか気まぐれで理容師を目指したというありさまだ。
そんな俺に両親は心底あきれていたが、兄貴だけは違った。俺が理容師になるのを応援してくれたのも兄貴だ。
なのに俺は…。
ばかな俺は、そんな兄貴を裏切ったのだ。
兄貴が、婚約者(今は兄貴の奥さんで俺の義理姉にあたる)の結衣子さんに、プロポーズするためにこつこつ指輪貯金しているのを俺は知っていた。
なのに俺は、どうしても欲しい車があって、それが偶然にも兄貴が貯めた指輪の貯金とほぼ同額で、さらに偶然が重なり、兄貴が結衣子さんと指輪を買いに行くためにその金を銀行からおろしたと知り、手をつけてしまったのだ。
初めのうちは同情して泊めてくれた友人たちも、やれ彼女が泊まりに来るとか、女が来るとか、恋人が来るとか…。
とにかくそんな理由でやんわりと追い出され、だから俺は、金の続く限りマン喫で暮らし、とうとう風邪をこじらせ店でぶっ倒れた。
新しい部屋を借りるには金も保証人もなく、実家の両親も頼れない。
なぜなら、若かりしころ、家族(両親と兄貴がいる)にさんざん迷惑をかけた俺は、半勘当状態なのだ。
ありきたりだが、厳格な両親(父は小学校の教頭で母親は私立校の音楽教師だ)の間に生まれた優秀な兄とバカな弟というのが我が家の家族合成で、両親の期待と愛情を一心に受けて育った6つ歳上の兄は、常に成績は上位を争い、地元で一番頭のいい高校から有名私立大に進学し、留学もし、有名私立校の英語教師という道を歩んだ。
一方俺はというと、常に成績は下からトップ3を争い、地元で一番バカな男子校を自主退学し、フリーターを経て、せめて高卒の資格くらい取ってくれと母親に泣かれ、それで、定時制高校に通いながら居酒屋でアルバイトをしている最中美咲と出会い、なぜか気まぐれで理容師を目指したというありさまだ。
そんな俺に両親は心底あきれていたが、兄貴だけは違った。俺が理容師になるのを応援してくれたのも兄貴だ。
なのに俺は…。
ばかな俺は、そんな兄貴を裏切ったのだ。
兄貴が、婚約者(今は兄貴の奥さんで俺の義理姉にあたる)の結衣子さんに、プロポーズするためにこつこつ指輪貯金しているのを俺は知っていた。
なのに俺は、どうしても欲しい車があって、それが偶然にも兄貴が貯めた指輪の貯金とほぼ同額で、さらに偶然が重なり、兄貴が結衣子さんと指輪を買いに行くためにその金を銀行からおろしたと知り、手をつけてしまったのだ。