あの時君は、たしかにサヨナラと言った
そんな理由もあって、実家には帰れないのだった。

しかも、実家は、兄貴夫婦が二世帯住宅をたて両親とともに暮らしている。

無論、根は優しい兄貴のことだ。俺が住む場所を失ったと言えば受け入れてくれるに違いない。結衣子さんだって、兄貴と同じくらい、いや、それ以上に優しい。

でも、それじゃ俺の気がすまない。

いつか、あの時盗んだ金を全額揃えて返せる日まで、実家には帰らないと決めている。

ちなみに、盗んだ金で買った車は三ヶ月後に単独事故を起こし、廃車になった。バチが当たったのだ。

話がだいぶそれてしまったけれど、営業中にぶっ倒れた俺は、救急車で病院へ運ばれた。

そこで、カンペーちゃんと再会したのだ。

カンペーちゃんというのは、俺の通っていた美容学校の校長で、でも校長というわりには仕事などせず、校内をふらふらしたり、学校周辺のごみ広いをしたり、花壇にミニトマトの苗を植えたり、専門学校なのに勝手にウサギ小屋を作ってウサギを飼ったり…と、とにかくやりたい放題の不思議なおじいちゃんで、理事長の親戚だとか、元々は公立高校の校長だったとか、とにかく色々な噂があるのだが、確かなのは彼が間寛平に似ているから創立以来、生徒からカンペーちゃんと呼ばれている。それだけだった。
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