憚りながら天使Lovers
VS堕天使マンモン
愛里から恵留奈と千尋の訪問をドア越しに聞くが、いつものように何の感情も湧かない。カーテンを締め切った真っ暗な室内でベッドに座り込む。
入浴だけは日々かかさず行っているが、食事は二日に一回程度しか取れない。レトの死を受けてからは食べ物が喉を通らなくなっていた。いっそのこと早く消えてしまいたいと望んでおり、食事が取れないことにも半ば満足している。
亡くした当時は後追い自殺も考えていたが、自殺だとレトがいる天国に行けないと考え直し、病死を望んでいる。このまま少しずつ食事を減らせば、必ず病死出来ると玲奈はほくそ笑む。
(早く死にたい。死んでレトに会いたい……)
ベッドに座ったまま玲奈はひたすら同じことを考え抜く。ルタのことも考えなくもないが、比重としては死んでしまったレトの方が大きい。ぼーっと壁を眺めていると突然室内がまばゆいばかりの光に包まれるが、玲奈は無表情でそれを見つめる。
(この光量、きっとエレーナだ)
玲奈の推測通り目の前には光り輝くエレーナが立っている。
「こんにちは、玲奈さん」
エレーナの登場にも玲奈の口はぴくりとも動かない。
「時間がないから端的に言うわね。ベルフェゴールクラスの悪魔と抗戦中で、玲奈さんの力が必要なの。一緒に来てほしい」
当然ながら玲奈は微動だにしない。
「レトを転生復活させるためにも」
エレーナのこのセリフに玲奈は顔を上げ反応する。
「転生復活、どういう意味?」
「転生復活は名の如く全ての記憶等を引き継ぎ生き返らせる儀式。そして本来、上級職にしか許されない転生復活。だけど、ベルフェゴールクラスを倒した恩賞を大天使様から頂き、大天使様から神へ御進言頂ければ、レトの転生復活も可能。という筋書きよ」
(レトを復活させることが出来る!)
生気の戻った玲奈の瞳を見てエレーナは悟る。
「準備するなら、三分でお願いするわ」
「分かった、ちょっと待ってて!」
パジャマを勢いよく脱ぎ捨てると玲奈はすぐに着替えを始めた。
エレーナの背中に乗り白山手前の空中で玲奈たちは作戦を話し合う。橘邸で借りてきた蛍丸の刀身は既に強烈な輝きを放っており、臨戦態勢は整っている。
「見ての通り、今回は地上のみならず空中にも軍勢が多数配置されてる。どうする?」
「マンモンまでローズレインで正面突破。ローズボムでマンモン討伐、以上」
「気が合うわね。ここだけの話、恵留奈も毎日泣いてたわ。こんな恵留奈を私もほっとけない。一秒でも早く元の生活に戻すわよ!」
「当然!」
光集束を極めた玲奈の心流を受け、エレーナは終始全力でローズレインを放つ。ベルフェゴール戦よりもずっと強く戦闘慣れした玲奈を、エレーナは背中越しに力強く感じていた――――
――数時間後。ベルフェゴール戦同様、エレーナ無双により戦局は一気にひっくり返り、マンモン討伐はプリメーラに取られたものの全体を勝利に導いた者が誰かは明白だ。
大天使ハニエルの前にエレーナと共に並びひざまずくと、ハニエルは玲奈に近寄り同じくひざまずく。
「八神玲奈、貴女の参戦、大変助かりました。前ベルフェゴール討伐の件と合わせ感謝致します」
「いえ、私は私の任を全うしただけにございます」
玲奈は丁寧に頭を下げる。
「プリメーラから聞き及んでおります。何やらお願いがあるとか。私に出来る限りのことは致します。申してみて下さい」
エレーナを見ると笑顔で頷く。
「では、恐れながら、私を悪魔から救うため犠牲になったレトとという天使の、転生復活をお願いできましたら幸いです」
「亡くなった天使の転生復活か。ふむ、その天使は上級職か?」
「いえ、中級職にございます」
「そうか。では例外になるな。しかし、玲奈の働きに見合うよう、神に掛け合うだけ掛け合おう。期待せず待っていておくれ」
「はい! ありがとうございます」
エレーナを見ると笑顔で玲奈を見ており、ハニエルの率いる軍勢を見送ると千尋が駆け寄って来る。
「やりましたね! 玲奈さん」
「私じゃなくエレーナのお陰……」
隣りにいたはずのエレーナは既に恵留奈に変わり、疲れ果てたのかスヤスヤ寝ている。
「恵留奈はこんなだし、とりあえず帰ろっか?」
玲奈と千尋は苦笑し白山を後にする。レトへの想いと一縷の期待を胸に抱きながら。