憚りながら天使Lovers
ルタとレト
一週間後。自宅で早めの昼ご飯をしっかり取り、化粧も決めて大学へと向かう。急に元気になった玲奈を見て、愛里は驚いていたが、玄関で見送る際には涙ながらに喜んでいた。
たまり場にしていた学内のテラスを覗くと、懐かしい光景が見られ玲奈は嬉しくなる。三人に歩み寄って行くと、玲奈の姿を見つけるなり恵留奈は血相を変え駆け寄り泣きながら抱きしめる。その涙を見て、玲奈のみならず千尋も号泣している。明は三人で抱き合いながら泣く姿を、笑顔ながらも少しバツが悪そうに見守っていた――――
――夕方。自室に入るとベッドに座る。いろんな人に心配され笑顔を貰い、玲奈の心は温かさで満たされていた。そして、ずっと抱いていた予感を試そうと決める。
「レト」
つぶやいた後、目をきつく閉じ数秒後、ゆっくり開けてみる。そこにはいつも見ていたレトが笑顔で立っている。その姿をみるやいなや、玲奈は全力で抱きしめに行く。確かにある肉体と胸の鼓動。優しく抱きしめられる腕。全てがあの夜と同じレトだ。
「レト、絶対離さないから」
「久しぶりに会った台詞がそれか。ま、嬉しいけど」
力強く抱きしめてくる玲奈に、レトは少し困惑する。
「あのさ、玲奈。ちょっと言いにくいことがあるんだけど」
「なに?」
玲奈は抱きしめたまま問う。
「えっと、玲奈の後ろのベッドに、ルタが鬼の形相で座ってる」
(へっ?)
急いで振り向くとレトの言うように、ルタが見たことのないくらい怖い顔でこちらを見ている。
(いらっしゃったー! このタイミング!!)
「い、いつから居たの? ルタ」
「レトと一緒に来たんだよ。玲奈を驚かそうと思って。驚かされたのは僕だけどね!」
(さ、さ、さ、最悪だーー!)
どぎまぎする玲奈を見てルタは溜め息をつく。
「知ってたよ。レトとの関係」
「えっ?」
「レトが死んで転生復活させてもらったこと、そして玲奈とレトがどんなふうに関わってきたのか。レト本人からね」
(レト、話したんだ……)
「僕は自分自身の転生復活をも視野に入れて上級職まで昇級したのに、レトは玲奈によって転生復活してもらった。嫉妬したよ、正直。今までなんのために昇級の努力したのかと思ったし」
「ご、ごめんなさい。ルタ……」
「でも、かけがえのない弟を神の威光まで借りて復活させてくれたことは感謝してる。これは兄としてね。でも、恋人を弟に取られてムカツイているのも、兄としての正直な思いだよ」
(ですよね~)
「転生復活までさせて会いたいと願うくらいだから、僕よりレトが好きなんだろ?」
答え難い質問に玲奈は戸惑う。
「待っててくれるって言ったのに……」
不満そうなルタに返す言葉もない。
「帰ってきたら処女くれるって言ったよね?」
(あわわわわわわわ、どうしよう~! 普通に修羅場だ……)
突っ立ったまま何も言えない玲奈を見てルタは噴き出す。
「冗談だよ、玲奈」
「えっ?」
「レトと計画してハメたんだよ」
「どういうこと?」
「レトから聞いて、約束を破られたことはショックだったよ。でも、弟の命の恩人でもある玲奈を恨む道理はない。なにより僕だって玲奈が好きだ。君の幸せを祈りはしても恨みはしないさ」
(ルタ……)
「でも、やっぱりすんなり引くのも癪だからさ。レトの協力の元、玲奈をからかおうってことにしたのさ。本当はもう玲奈のことはふっ切れてる。それに、レトが死んでからすぐに駆け付けられなかった負い目もあるし」
(こんなことをするような、策士とは思えない……)
怪訝な目で見てくる玲奈に、ルタは笑顔になる。
「ま、そんなわけで僕のミニ復讐劇は終了。後はお若い二人に任せて、お兄さんは天界に帰るよ」
レトはずっと口を開かずルタを見つめている。
「じゃあ、レト、玲奈を頼んだよ。もう玲奈を心配させるようなことになるなよ?」
「分かってる」
ルタは玲奈に向き直る。
「さようなら、玲奈。元気で、幸せにね」
「ルタ、貴方まだ……」
何か言おうとする前にルタは勢いよく飛び去ってしまう。玲奈は居心地が悪く目を閉じ唇を噛んでいる。見兼ねたレトは口を開く。
「全部嘘だよ」
レトの言葉に玲奈は頷く。
「知ってる。レトと計画してとか、ふっ切れたとか、やせ我慢でしょ。悲しそうな目ですぐ分かった……」
「自分が帰る間際まで、口を開くなって命令されてたんだ」
(ルタ……)
「本当バカだよねルタって。初めて会ったときからバカだと思ってたし。でもさ、本当にバカなのは私だよね。あんな優しいルタを裏切って、傷つけやせ我慢までさせてサヨナラまで言わせてさ。私だけ幸せになろうとしてる。本当のバカは私なんだ。最低だ、私……」
泣きながら立ち尽くす玲奈をレトは優しく抱きしめる。
(ごめんなさい、ルタ。本当にごめんなさい……)
唇を強く噛んだまま、玲奈は心の中で何度も何度も謝っていた。