龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~
「開かずの間に置いていたのよ。
いつも儀式の後はそこで眠ってしまうから、掛布代わりにね」
風邪を引いては大変だもの、と葵は表情一つ変えずに淡々と言葉を口にする。
これで、騙されてくれればいいけれど……。
そんな簡単に引っかかってくれる相手ではないから、どうしようか。
無表情の裏で冷や汗をかきながらと考えを巡らせた。
「左様で、御座いますか?」
葵の言葉に、老婆は訝しむような声で聞いてくる。
やっぱり、そう簡単には騙されてはくれないらしい。
そんな老婆に、葵は躊躇いなく頷く。
下手に嘘をついてボロを出すよりも、かなり単純な行動一つで答えた方が安全だ。
大丈夫。
堂々としていれば気づかれないはず。
早々にバレるわけにはいかない。
だって、皐月から貰った羽織だけは手放したくないから。
どうして彼の羽織にここまで執着するのか、自分でもよくわからない。
ただ、失いたくないという思いだけが胸の奥で大きくなっているのだ。
「それよりも婆、今日は村の人達はどれくらい集まるの?」
葵は皐月の羽織から話を逸らすため、そう老婆に聞いた。
老婆は、それでもやはり鋭い眼差しを向けてくるが、葵があるの表情も声も変わらないからだろうか。
千早に乱れがないか確認をしながら、やれやれと仕方なく首を緩慢に振った。
どうやら、今回は葵の粘り勝ちのようだ。
「多分、村人全員集まります」
「……そう」
葵はため息混じりに短く答える。
そんな葵に、老婆は下から見上げるような視線を送った。
「……憂鬱、とか申しませんよね?」
老婆の言い諭す声音。
葵には、それに反論するすべを持っていない。
葵は、村の為に犠牲となるのが役目なのだ。
たとえそれが理不尽であろうとも、受け入れなくてはならない。
本当に、巫女なんて損な役回りだと思う。
「言わないわ」
「そうですか。
ならば、早速村へ向かいましょう」
老婆は葵に千早を着せ終わり立ち上がると、部屋の障子を開いて外へ出るように促す。
それをしばらく無表情で眺め見て、ゆっくりとした足取りで歩く老婆の後を追った。
境内に出て見えるのは、雲ひとつない晴天。
青々とした緑の山に、可愛らしい小鳥の囀り。
ひらひらと、どこからか迷い込んできた一匹の白い蝶が目の前を優雅に通っていく。
稲の植えられた水田は、燦々お降り注ぐ太陽の光に反射して煌めいて美しい。
辺り一面には広がる自然の営みで溢れていて、とても豊かだ。
それを葵は眩しげに見つめ、赤い鳥居を潜り、長い階段をゆっくりと降りた。
「巫女姫様」
目の前の風景に目を遊ばせていた葵を、老婆が振り返らずに呼ぶ。
急に現実に引き戻された葵は少し顔を歪めながら、前を歩いているをみつめた。
(そんなにも、私から自由を奪いたいのかしら……)
何故呼ばれたのかなんて、葵は老婆の言葉を最後まで聞かなくてもわかっている。
老婆はきっと、こう言いたいはず。
「余計なお喋りは慎むように、でしょう?」
葵は淡々と、相変わらずの無表情で老婆にそう答えた。
いつも儀式の後はそこで眠ってしまうから、掛布代わりにね」
風邪を引いては大変だもの、と葵は表情一つ変えずに淡々と言葉を口にする。
これで、騙されてくれればいいけれど……。
そんな簡単に引っかかってくれる相手ではないから、どうしようか。
無表情の裏で冷や汗をかきながらと考えを巡らせた。
「左様で、御座いますか?」
葵の言葉に、老婆は訝しむような声で聞いてくる。
やっぱり、そう簡単には騙されてはくれないらしい。
そんな老婆に、葵は躊躇いなく頷く。
下手に嘘をついてボロを出すよりも、かなり単純な行動一つで答えた方が安全だ。
大丈夫。
堂々としていれば気づかれないはず。
早々にバレるわけにはいかない。
だって、皐月から貰った羽織だけは手放したくないから。
どうして彼の羽織にここまで執着するのか、自分でもよくわからない。
ただ、失いたくないという思いだけが胸の奥で大きくなっているのだ。
「それよりも婆、今日は村の人達はどれくらい集まるの?」
葵は皐月の羽織から話を逸らすため、そう老婆に聞いた。
老婆は、それでもやはり鋭い眼差しを向けてくるが、葵があるの表情も声も変わらないからだろうか。
千早に乱れがないか確認をしながら、やれやれと仕方なく首を緩慢に振った。
どうやら、今回は葵の粘り勝ちのようだ。
「多分、村人全員集まります」
「……そう」
葵はため息混じりに短く答える。
そんな葵に、老婆は下から見上げるような視線を送った。
「……憂鬱、とか申しませんよね?」
老婆の言い諭す声音。
葵には、それに反論するすべを持っていない。
葵は、村の為に犠牲となるのが役目なのだ。
たとえそれが理不尽であろうとも、受け入れなくてはならない。
本当に、巫女なんて損な役回りだと思う。
「言わないわ」
「そうですか。
ならば、早速村へ向かいましょう」
老婆は葵に千早を着せ終わり立ち上がると、部屋の障子を開いて外へ出るように促す。
それをしばらく無表情で眺め見て、ゆっくりとした足取りで歩く老婆の後を追った。
境内に出て見えるのは、雲ひとつない晴天。
青々とした緑の山に、可愛らしい小鳥の囀り。
ひらひらと、どこからか迷い込んできた一匹の白い蝶が目の前を優雅に通っていく。
稲の植えられた水田は、燦々お降り注ぐ太陽の光に反射して煌めいて美しい。
辺り一面には広がる自然の営みで溢れていて、とても豊かだ。
それを葵は眩しげに見つめ、赤い鳥居を潜り、長い階段をゆっくりと降りた。
「巫女姫様」
目の前の風景に目を遊ばせていた葵を、老婆が振り返らずに呼ぶ。
急に現実に引き戻された葵は少し顔を歪めながら、前を歩いているをみつめた。
(そんなにも、私から自由を奪いたいのかしら……)
何故呼ばれたのかなんて、葵は老婆の言葉を最後まで聞かなくてもわかっている。
老婆はきっと、こう言いたいはず。
「余計なお喋りは慎むように、でしょう?」
葵は淡々と、相変わらずの無表情で老婆にそう答えた。