龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~
怪しいヤツ(皐月side)
「絢嶺、ちょっと行ってくる」
月明かりが照らす静かな天界。
その片隅にある小さな社の自室にいる絢嶺に、皐月がひっそりと声を掛けた。
「行くのはいいですが、父上にだけは見つからないで下さいね」
絢嶺は文を読む手を止め、声のする縁側を振り返る。
そう絢嶺が言うと、皐月は小さく頷いた。
「あぁ、わかってる。
父の事は頼んだぞ、絢嶺」
「はい、わかってますよ。
気をつけて行ってきてくださいね、兄上」
心配げな絢嶺にもう一度頷いて、ヒラヒラと手を振りながら皐月は部屋を離れた。
「正面から行くと、さすがに見つかるか……?」
皐月は社を出て、首を傾げながら呟いた。
社と社の間には仕切りがなく、天界の入り口にある赤い鳥居が遠目でもはっきりと見える。
そこから行くのが手っ取り早いのだが……。
しかし、天界の入り口であるそこは、神の往来を確かめる呪いがかけられている。
下手をすれば、その呪いにより、外へ出たことが筒抜けになる可能性があるのだ。
「さて、どうするか……」
皐月はぐるりと周辺を見回す。
「裏門は……」
正門から反対側、視覚では見られない程遠くには同じ鳥居がある。
しかし、そこにも問題があって。
その裏門の前に、神々の中の最高神・天照大御神《あまてらすおおみかみ》が以前利用していた、木造建ての社がある。
その前を横切ることになるのだ。
「社の守護神達に遭遇しなければ問題ないのだが…」
今は人の世に降臨していて天界の社は仮置きの御神体のみで住んではいないのだが、やはり神々の中でも別格とされるあの女神のものだ。
だから、天照大御神の社には、霊力の強い守護神達が常に見回りとして練り歩いている。
見つからずに裏門に辿り着ければ、地上には降りやすい。
何せ、裏門には呪いがないのだ。
「とりあえず、行ってみるか……」
多少の不安要素がある。
下手をすれば、喧しい父親の逆鱗に触れるだろう。
しかし、行ってみなければ、どうにもならないから。
皐月は社の庭を見渡すと、一番近くにあった色づいていない紅葉の木に近づいて、幹に触れた。
「天照大御神の社の近く、神木までの道を開け」
皐月は幹に向かってそう告げる。
すると、皐月の体から淡い光が放たれる。
それに共鳴するように、紅葉の木も光り出した。
「開け」
そう再び告げる。
すると、紅葉の幹の中心が二つに割れる。
その先には両腕を広げた数十倍にもなる太さの、青々とした葉が天界の空に高く伸ばした神木がある。
紅葉の木と神木を繋げる空間の裂け目に、皐月は足を踏み入れた。
神であるなら、空間を繋げるのは容易い。
それが高位の神になればなるほど、空間の距離は長くなる。
けれど……。
「これで地上に行けたらよかったのだが……」
まだまだ若輩者である皐月には、少々難しい。
天照大御神やその兄弟、それと同等の力を持つ神々でなければ、霊力が足りない。
やろうと思えば出来るが霊力が底をつく。
そうなると、霊力が命の源ともいえる神は二・三日動けなくなるのだ。
月明かりが照らす静かな天界。
その片隅にある小さな社の自室にいる絢嶺に、皐月がひっそりと声を掛けた。
「行くのはいいですが、父上にだけは見つからないで下さいね」
絢嶺は文を読む手を止め、声のする縁側を振り返る。
そう絢嶺が言うと、皐月は小さく頷いた。
「あぁ、わかってる。
父の事は頼んだぞ、絢嶺」
「はい、わかってますよ。
気をつけて行ってきてくださいね、兄上」
心配げな絢嶺にもう一度頷いて、ヒラヒラと手を振りながら皐月は部屋を離れた。
「正面から行くと、さすがに見つかるか……?」
皐月は社を出て、首を傾げながら呟いた。
社と社の間には仕切りがなく、天界の入り口にある赤い鳥居が遠目でもはっきりと見える。
そこから行くのが手っ取り早いのだが……。
しかし、天界の入り口であるそこは、神の往来を確かめる呪いがかけられている。
下手をすれば、その呪いにより、外へ出たことが筒抜けになる可能性があるのだ。
「さて、どうするか……」
皐月はぐるりと周辺を見回す。
「裏門は……」
正門から反対側、視覚では見られない程遠くには同じ鳥居がある。
しかし、そこにも問題があって。
その裏門の前に、神々の中の最高神・天照大御神《あまてらすおおみかみ》が以前利用していた、木造建ての社がある。
その前を横切ることになるのだ。
「社の守護神達に遭遇しなければ問題ないのだが…」
今は人の世に降臨していて天界の社は仮置きの御神体のみで住んではいないのだが、やはり神々の中でも別格とされるあの女神のものだ。
だから、天照大御神の社には、霊力の強い守護神達が常に見回りとして練り歩いている。
見つからずに裏門に辿り着ければ、地上には降りやすい。
何せ、裏門には呪いがないのだ。
「とりあえず、行ってみるか……」
多少の不安要素がある。
下手をすれば、喧しい父親の逆鱗に触れるだろう。
しかし、行ってみなければ、どうにもならないから。
皐月は社の庭を見渡すと、一番近くにあった色づいていない紅葉の木に近づいて、幹に触れた。
「天照大御神の社の近く、神木までの道を開け」
皐月は幹に向かってそう告げる。
すると、皐月の体から淡い光が放たれる。
それに共鳴するように、紅葉の木も光り出した。
「開け」
そう再び告げる。
すると、紅葉の幹の中心が二つに割れる。
その先には両腕を広げた数十倍にもなる太さの、青々とした葉が天界の空に高く伸ばした神木がある。
紅葉の木と神木を繋げる空間の裂け目に、皐月は足を踏み入れた。
神であるなら、空間を繋げるのは容易い。
それが高位の神になればなるほど、空間の距離は長くなる。
けれど……。
「これで地上に行けたらよかったのだが……」
まだまだ若輩者である皐月には、少々難しい。
天照大御神やその兄弟、それと同等の力を持つ神々でなければ、霊力が足りない。
やろうと思えば出来るが霊力が底をつく。
そうなると、霊力が命の源ともいえる神は二・三日動けなくなるのだ。