龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~
「急にどうした、葵?」
葵は心配げな皐月の顔をしばらく眺め、やがて首を横に振る。
「何でも、ないです」
「そうか?」
少し納得がいかない表情で、皐月が聞き返した。
けれどろ葵は大きく頷き、自身の不安を消し去るように満面の笑みを浮かべてみせた。
その葵の表情を見ていた皐月は、静かに葵を自分の方へと引き寄せる。
皐月の腕の温もりに包まれて、葵は頬を紅潮させた。
「何かあれば、必ず私に言え。
私は、何があろうともお前の見方だ」
「……はい」
葵を心配してくれる優しい皐月の声。
自然と、涙が溢れてきた。
今まで、見方だと言ってくれる存在などなかった。
皐月のように、葵の名前を呼ぶ者もいなかった。
皆が揃って「巫女姫」と与えられた役職で呼ぶ。
誰でもいい。
自分を巫女ではなく、葵と名前で呼んでくれる存在が欲しかった。
「大丈夫だ、お前には私がいる。
独りで苦しむな…」
皐月は、更に強い力で葵を抱きしめた。
「……皐月、様……」
涙に濡れた声で名前を呼ぶと、優しく頭を撫でて皐月の胸に押さえられた。
全身を包んでくれる皐月からは、貸してくれた羽織と同じ白梅の香りがする。
この香りは、いつの間にか葵のお気に入りになっていた。
「葵、私から一つ約束して欲しい事がある」
皐月は自分の唇を寄せた葵の耳元で、そっと囁いた。
その声は、とても真剣だ。
葵は皐月の胸に顔を押さえられたまま、静かに言葉を待っていた。
「長年の贄の儀で、お前の体と魂はそろそろ限界だろう。
だから、これから来るだろう体調の変化は必ず私に伝えて欲しい」
「……え?」
「限界」という言葉に、葵は疑問を抱いてしまった。
確かに、長年贄の儀を行っているせいで生まれた頃よりも魂がかなり削られているけれど。
体調が悪くなるのは、贄の儀を行ったあとの数刻だけ。
それ以外では、次を行うまで普通に生活しているのに……。
「私はまだ、平気ですよ……?」
「今が平気でも、だ。
頼むから、約束してほしい」
恐る恐る言った葵に、皐月は真剣な声でそう告げる。
皐月は、これから来るだろ未来を想像して言っているのだろうか。
葵は皐月の腕の中でしばらく考え、やがて頷いた。
「わかりました、必ずお伝えします」
「有難う」
葵の返事に、皐月はほっとした声で礼を告げる。
有難うと言うべきなのは、皐月に心配してもらっている葵の方だというのに……。
「あの……。
どうして、お礼を皐月様が言われるのですか?」
そう聞いた葵の肩に、皐月は顔を埋める。
その際、頬に触れた皐月の髪が柔らかく擽り、とても心地いい。
「約束してもらえて嬉しいから、有難うなのだ」
「……嬉しい、ですか……。
逆に、迷惑をかけてしまいますよ?」
葵は申し訳なさそうな声で聞き返す。
異常を報告するということは、それを皐月が世話をしてくれるという意味に直結するし。
葵とて、心配してくれるのは有難いし、嬉しい。
でも、本当にいいのだろうか。
「お前とは会えない時間が多い。
具合が悪い時くらい、共にいてもいいではないか?」
「皐月様……」
共にいたい。
多分、それが皐月の本当の理由だろう。
顔を正面から見るために名残惜しそうに離れていく皐月の体が、それを物語っているから。
「……駄目か?」
少し不安そうに皐月が聞き返す。
そんな皐月の顔をしばらく眺め、葵はやがて首を横に振った。
葵は心配げな皐月の顔をしばらく眺め、やがて首を横に振る。
「何でも、ないです」
「そうか?」
少し納得がいかない表情で、皐月が聞き返した。
けれどろ葵は大きく頷き、自身の不安を消し去るように満面の笑みを浮かべてみせた。
その葵の表情を見ていた皐月は、静かに葵を自分の方へと引き寄せる。
皐月の腕の温もりに包まれて、葵は頬を紅潮させた。
「何かあれば、必ず私に言え。
私は、何があろうともお前の見方だ」
「……はい」
葵を心配してくれる優しい皐月の声。
自然と、涙が溢れてきた。
今まで、見方だと言ってくれる存在などなかった。
皐月のように、葵の名前を呼ぶ者もいなかった。
皆が揃って「巫女姫」と与えられた役職で呼ぶ。
誰でもいい。
自分を巫女ではなく、葵と名前で呼んでくれる存在が欲しかった。
「大丈夫だ、お前には私がいる。
独りで苦しむな…」
皐月は、更に強い力で葵を抱きしめた。
「……皐月、様……」
涙に濡れた声で名前を呼ぶと、優しく頭を撫でて皐月の胸に押さえられた。
全身を包んでくれる皐月からは、貸してくれた羽織と同じ白梅の香りがする。
この香りは、いつの間にか葵のお気に入りになっていた。
「葵、私から一つ約束して欲しい事がある」
皐月は自分の唇を寄せた葵の耳元で、そっと囁いた。
その声は、とても真剣だ。
葵は皐月の胸に顔を押さえられたまま、静かに言葉を待っていた。
「長年の贄の儀で、お前の体と魂はそろそろ限界だろう。
だから、これから来るだろう体調の変化は必ず私に伝えて欲しい」
「……え?」
「限界」という言葉に、葵は疑問を抱いてしまった。
確かに、長年贄の儀を行っているせいで生まれた頃よりも魂がかなり削られているけれど。
体調が悪くなるのは、贄の儀を行ったあとの数刻だけ。
それ以外では、次を行うまで普通に生活しているのに……。
「私はまだ、平気ですよ……?」
「今が平気でも、だ。
頼むから、約束してほしい」
恐る恐る言った葵に、皐月は真剣な声でそう告げる。
皐月は、これから来るだろ未来を想像して言っているのだろうか。
葵は皐月の腕の中でしばらく考え、やがて頷いた。
「わかりました、必ずお伝えします」
「有難う」
葵の返事に、皐月はほっとした声で礼を告げる。
有難うと言うべきなのは、皐月に心配してもらっている葵の方だというのに……。
「あの……。
どうして、お礼を皐月様が言われるのですか?」
そう聞いた葵の肩に、皐月は顔を埋める。
その際、頬に触れた皐月の髪が柔らかく擽り、とても心地いい。
「約束してもらえて嬉しいから、有難うなのだ」
「……嬉しい、ですか……。
逆に、迷惑をかけてしまいますよ?」
葵は申し訳なさそうな声で聞き返す。
異常を報告するということは、それを皐月が世話をしてくれるという意味に直結するし。
葵とて、心配してくれるのは有難いし、嬉しい。
でも、本当にいいのだろうか。
「お前とは会えない時間が多い。
具合が悪い時くらい、共にいてもいいではないか?」
「皐月様……」
共にいたい。
多分、それが皐月の本当の理由だろう。
顔を正面から見るために名残惜しそうに離れていく皐月の体が、それを物語っているから。
「……駄目か?」
少し不安そうに皐月が聞き返す。
そんな皐月の顔をしばらく眺め、葵はやがて首を横に振った。