龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~

水鏡の向こうで

†*†


皐月と葵の逢瀬と同刻の水鏡の池。

月明かりのもと、池をじっと見つめている緋月の姿があった。


「……あぁ、なるほど」


水鏡に映る皐月の姿に、緋月はそう小さく呟く。

水鏡に映るのは、地上にある神社の部屋。

皐月と、知らぬ女と抱き合う姿がある。

どうやら、皐月は女に会いに行ったようだ。

緋月の見つめる水鏡の池は、天界から地上の様子を映し出す事が出来る特別な力がある。

緋月はその力を利用して、皐月の様子を観察していたのだ。


「だが、あの女……」


女の身につけている着物に、緋月は目を細めた。


「巫女装束……」


その着物を身につけているのだ。

皐月と共にいる女は、巫女に違いない。


「それは確かに、表から堂々とは地上に降りれないな」


何故、表からも裏からも行くのを躊躇っていたのか、やっと理解出来た。

密かに会っていたからだったのだ。

この逢瀬は、許されない。

巫女は俗世から身を断ち、全てを神に捧げて生きる。

神も、巫女のその掟を破らせてはならない。

しかし、二人の様子からすると、完全に掟に反している。

しかし、緋月にはそれ以上に気になる事があった。


「あの巫女……」


魂を、かなり削られている。

巫女は、贄に使われる事もあるが……。

しかし、一度に命を奪うのが神には当たり前。

徐々に削り、長年の苦痛を与えるような卑劣なやり方は、絶対にしない。

たとえ贄であれ、神にはそれ相応の代価と敬意、そして慈悲を与えるから。


「あの巫女が仕える神は誰だ……。
どうやら、調べる必要がありそうだな」


緋月は水鏡の池に映る皐月と巫女を見つめ、静かな声でそう呟いた。



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