龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~
「これは、私の宝物よ」

ただの伝言のような文だったし、普通ならば捨ててしまうのだろう。

しかし、葵には嬉しい贈り物だ。

これで、皐月から貰うのは二つ目になった。


「貰ってばかりだけど、いいのかしら……?」


皐月なら、気にしないと思う。

でも、貰いっぱなしのままは、どうしても気が引けてしまうから。

文を抱きしめ、横に畳まれている皐月の羽織を見つめながら呟いた。

神に貰ってばかりで、いいはずない。

しかし、神にお礼をするとなると、難しいのが現実だ。

神の所持する物は、全て霊力の宿る貴重品。

それ以上の物を返そうと思っても、神の所持品に敵う物があるはずない。


「どうしようかしら……」


葵はそう小さく呟いた。

そんな時、障子に一つの影が映る。

きっと老婆だ。

葵は、急いで手に持っていた文を懐に隠した。

こんな物を見られたら、巫女としての在り方を問われる事になる。


「巫女姫様、おはようございます」

「えぇ、おはよう」


障子の影が、頭を下げる。

葵は老婆に短く返事をして、皐月の羽織を着て起き上がった。


「食事を運んでも、宜しいですか?」

「有難う、お願いするわ」


葵は布団を片付け、老婆に返事をする。

その返事を聞いた老婆は、静かに障子を開く。

そして、料理が乗せられた膳を葵の前にそっと置いた。


「では、私は掃除がありますので……」

膳を運んだだけで、老婆は何も話す事なく部屋を出ていく。

必要以上の会話がないのは、いつもの事。

慣れている葵は膳の前に座り、手を合わせた。
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