龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~
「お前は一体、いつもどこへ行っている」

「父には関係ない」


皐月は、繧霞の顔も見ずに素っ気なくそう答えた。

言えるはずがない。

繧霞に仕える巫女に会っているなどとは。

言えば、葵の立場が危うくなる。

「とりあえず、お前に言っておく」

「何をだ」


突然の繧霞の言葉に、皐月は不機嫌な声で返した。


「今後一切、外出を禁止する。
もう少し絢嶺を見習って、大人しくしていろ」


やはり、な。

言われると思っていた。

こういう用事以外、皐月を呼び寄せる事はしない。

皐月は、繧霞を見ている目を怒りで細めた。


「あぁ、わかった。
言われた通りにしよう。
それで満足か」


背中を向けている繧霞をしばらく見つめていたが、皐月も背中を向ける。

そして、ドスドスと大きな足音をたてながら絢嶺のいる部屋へ再び向かった。

繧霞のあの態度、気に入らない。

一体何故、この社に閉じ込める必要があるのだ。


「絢嶺!」


絢嶺のいる部屋の襖を、皐月は勢いよく開く。

すると、中にいた絢嶺は驚いて振り返った。


「は、はい。
どうしたんですか、兄上?」

「外出禁止だと言われた」


皐月は絢嶺の横に座りながら言う。

そんな皐月を見て、絢嶺は深い息を吐いた。


「何を今さら……。
すでにわかっていた事でしょう?」

「あぁ、わかっていた。
わかっていたが、あまりにも理不尽だ」


何故、常に言い成りになってなければならない。

たかが父親であるだけなのに。


「しかし、父に立ち向かう術は私達にはありませんよ」

「あぁ」


わかっている。

今の皐月や絢嶺では、繧霞には敵わない。

それは、痛いほど感じている。

ゆえに、悔しい。

傲慢さだけで生きている繧霞に敵わないのが、屈辱なのだ。
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