龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~
「でも、兄上。
一体、いつもどこへ行かれているのですか?」


常に頭の中にあった疑問を、絢嶺は口にした。

それを静かに聞いていた皐月は、ゆっくりと口を開く。


「父に仕える巫女の所だ」

「……は?」


少しの沈黙の後、絢嶺が聞き返す。

今、皐月は何と言った。

聞き違いでなければ、巫女と言ったはず。


「何を考えてるんですか、兄上!」

「わかっている。
お前が言いたい事は、あらかた全部」


繧霞は、誰も触れられないように葵を神社に閉じ込めている。

繧霞自身の大事な贄だから。

そんな葵と毎夜会っていると繧霞にわかってしまえば、とても危険だ。

まず、皐月と葵の命はないだろう。

そして何よりも、皐月は神で葵は巫女。

世間体で許されない。

そのはずなのに、出会ってしまったのだ。

ただ気紛れだった。

繧霞に反発して、外へ出て。

繧霞の閉じ込める贄の巫女を、ただ見るだけだった。

しかし、閉じ込められていたた巫女があまりにも儚くて、消えそうで……。

守りたい。

一目で、そう思ってしまった。


「完全に、私の一目惚れだ」


出会った瞬間から、感じた。

自分はもう、葵以外の女をこの腕に抱く事はおろか、見る事すら出来ない。

愛する事は、さらに無理だと。


「ようやく、兄上にも春が来ましたね」


少しだけ嬉しそうな絢嶺の声。

皐月は、そんな絢嶺へ恨めしげに目を細めてみせた。


「それは貶しているのか?」

「褒めてますよ、一応。
あの女心のおの字もわからなかった兄上が、まさか恋をするなんて……」


まさに夢のようだ。

そう言って柔らかな笑みを見せた。

しかし、表情とは裏腹に、言葉には棘があるように感じてしまったのは、気のせいではあるまい。
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