龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~

ちゃんと愛したい

†*†
 

日も暮れて老婆も帰ったあと、葵はすぐに開かずの間にやって来た。

もう来ているだろうか。

そんな期待を込めて扉を開いたが、中には誰もいないようだ。


「まだ来てない……」


早く会いたい。

そんな気持ちばかりが先を行き、いないという事実が少し悲しい。


「……早く来てくれないかしら……」


そう呟きながら考えるのは、やはり朝の事。

そっと引き寄せられた体。

布越しの皐月の体温。

それを思い出すだけで、葵の頬は赤く染まる。

葵はそんな頬を手で隠した。

嬉しい反面、恥ずかしい気持ちもある。

葵は、肺が空になるまで息を吐く。

その時だった。


「あぁ、もう待っていたんですね」


開かずの間の入り口から聞こえてきた柔らかな青年の声。

葵は反射的に顔を上げた。

けれど、目の前にいるのは皐月ではない。

いや、でも。

よく見れば雰囲気が似ている気がする。

そして、皐月の霊力にも近い。


「あの……、貴方は一体……?」


首を傾げると、青年は淡い笑みを浮かべなから口を開いた。


「私は絢嶺、皐月の弟です」

「皐月様の……っ!?」


どうりで似ているわけだ。

しかし、何故ここに来たのは皐月ではなく、絢嶺なのだろうか。

訝しい表情を見せる葵に、絢嶺はそっと一通の文を差し出した。


「これを貴女に。
我が兄、皐月より預かって来ました」

「皐月様から……?」


首を傾げ、葵は絢嶺から文を受け取る。

その文を、葵はゆっくりと開くと、そこには流麗な文字で内容が綴られていた。


『今日は都合が悪くなって、来られなくなった。
代わりに、私の弟の絢嶺を送ったから、話し相手になってもらうといい』


綴られていた内容は、たったこれだけ。

来ないのだとわかると、少しだけ悲しい。

会えると期待してた分、落胆してしまう。
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