龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~
月の神
こつん…
社の自室にいる皐月は、ふいに聞こえた物音に顔を上げた。
聞こえたのは、縁側からだ。
よく見ると、障子に人影が映っている。
「誰だ」
鋭い声音で聞くと、その人物は障子をそっと開く。
そして、開いた障子から現れた人物に、皐月は目を大きく開いて驚いた。
「緋月!?」
何故、ここにいる。
その前に、何故この社がわかったのだ。
この社は、天界でも端の方にある。
あまり、知られてはいない場所のはずだ。
「ちょっと来い」
驚く皐月に歩み寄り、緋月は腕を掴んで強引に立たせる。
「……お前の父、繧霞はどこにいる?
案内しろ」
「は……?
突然現れて、一体何を……」
戸惑う皐月に、緋月は鋭い視線を向けた。
「後でわかる。
いいから、案内しろ」
「あ、あぁ……」
皐月は頷き、繧霞がいるであろう、本殿へ向かう。
その途中でも、皐月は緋月に腕を捕まれたまま。
そして、緋月は見る目も明らかに怒っている。
少し訝しみながらも、皐月は本殿の扉を開いた。
「ここにいるはずだ」
「わかった」
短くそう答え、緋月は本殿へ入って行く。
皐月も、その後ろを追った。
祭壇の前に座る繧霞。
その背後に立ち、緋月は睨みつけた。
「お前が繧霞だな」
「いきなり、誰だ」
繧霞は怒りを含む返事をしながら振り返る。
そして、見上げた瞬間、繧霞の顔から血の気が引いた。
「な……っ、月読命!?」
繧霞は慌てて姿勢を整え、深く頭を下げる。
繧霞の言葉を聞いた皐月は目を大きく開いた。
「緋月が月読命……!?」
叫ぶ皐月の声に答える事なく、緋月は目を怒りで細めた。
「お前に仕える巫女に会った」
「……はい」
繧霞は頭を下げたまま返事をする。
葵に会った……。
そうか、やっと疑問が晴れた。
朝に会った葵は泣いていた。
その葵から微かに緋月の気配がしていたから、おかしいと思っていたのだ。
やはり、会っていたのだ。
皐月が行く前に。