私は彼のことが苦手です。
1.素直になったら?
***
私には、苦手な人がいる。
「……私、あの人苦手。」
就業時間開始10分前。
私は朝から、入社当初から仲のいい同期の美紗子(みさこ)のミーハー話に付き合っていた。
そんな会話の中、つい本音を零してしまうと、美紗子が信じられないと言わんばかりの表情を浮かべてきた。
「えっ、どうして!? 今のあたしの話、ちゃんと聞いてた? 高宮(たかみや)さん素敵だよねってエピソードを伝えたはずなんだけど! 高宮さん、超いい男じゃん。何に対しても神対応だし、仕事できるし、性格も捻じ曲がってなくて優しいし、イケメンだし」
美紗子は私の言葉に反論を繰り出してきて、まるで取引先の人間を説得させるように、その良さを訴えてくる。
うん。そうだね。美紗子が言ってることは認めるよ。
その言葉の中には、この場所で否定できるところなんてほとんどない。
間違いなく、100%みんな同じことを口を揃えて言うと思う。
……でも。
「……やっぱり苦手なんだよねー。高宮さんって、すっごい苦手」
「野瀬(のせ)さん。おはよう」
「え?」
「ひっ!」
再び苦手だと強調した瞬間に名前を呼ばれた私は、声の方を振り向いた。
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