私は彼のことが苦手です。
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湊真の勉強会のサポートをする日の午後、私は湊真の運転する車の助手席に座っていた。
今日までの数日間、通常業務に加え、勉強会の準備や勉強で慌ただしい日々を過ごしていたけれど、それも今日で終わり。
今日さえ終わってしまえば、また平穏な日々が戻ってくるはず。
勉強会が開催される柚館大学病院に車が到着し、私が気合いを入れて車から下りようとした矢先のこと。
湊真は私を引き止め、“あるもの”を私の目の前に差し出してきた。
私は意味が理解できず、“それ”に釘付けになっていた。
「ほら、早く受け取れよ」
「……意味がわからないんですけど」
湊真の手の中にあるのは、指輪。
どうして湊真から指輪を受け取らないといけないの。しかも、湊真のしている指輪とペアと思わせるようなデザインの指輪。
「俺のフォローをするためにここにいるんだよな? それなら、これ、はめとけ」
「……」
「何、そんなに俺にはめて欲しいのか? ツンツンして見せて甘えたがりなところ、前と変わらないんだな」
「は?」
「仕方ないからはめてやるよ。その薬指に。ほら手、貸せよ」
「!」
湊真の言葉は本気らしく私の手を取ろうとしてきたので、私は慌てて手を引く。
「何で指輪が高宮さんのフォローになるんですか。理由もわからずそんなもの受け取れないし、はめられないと言っているんです」
正当な理由を言ってこない限り、私は指輪なんかしないと拒否の言葉を伝える。
どうせただの嫌がらせに違いないんだから、理由なんて言えないはずだ。
湊真がこんな嫌がらせまでしてくるほど子どもっぽくなってしまったなんて本当は信じたくない。
私、接し方を変えさせるほど、湊真に嫌われるようなことをした?
そう思うけど、これが現実なんだと自分に言い聞かせる。
私が大人でいればいいだけ。