私は彼のことが苦手です。
「……楓花。ひとつ、いい?」
「え、……ひゃっ」
湊真の手が私の腕を掴み、私を引き寄せる。
湊真は座ったまま私の腰に腕を回し、抱きつくようにしてお腹辺りに顔を埋めてきた。
「ちょっとだけ、このままでいさせてもらえる?」
「!」
湊真の甘えるような言葉と行動に驚いてしまう。
湊真がこんなことをしてくるなんて、付き合っていた頃の湊真からは想像もつかなかったから。
でも、昨日も湊真は「頑張れるおまじないちょうだい」とか「甘えさせて」とか、そんな言葉たちを言っていた。
大変なことになることを覚悟しての言葉だったのかな。
もしかして、昨日も今も私に甘えてくれてる?
もしそうなら、こうすることで湊真が少しでも元気になってくれたらいい。
今だけ……これくらいしてあげてもいいよね?と私は頷く。
「うん。いいよ」
「……ありがと」
ほっとしたように体の力を抜いた湊真の体重が、私の体にかかる。
適度な重さが心地よく感じ、付き合っていた頃のことをふと思い出す。
あの頃、私は湊真に甘えてばかりだった。
4つ年上の湊真のことをすごく大人だと思っていたし、湊真は私に弱いところを一切見せることがなかったから、つい頼ってしまっていたんだ。
でも、本当は違っていたのかな?
湊真だって普通の人間で、普通の男の子で、きっと弱気になったことだってあったはず。
私が子供だったから、頑張って大人でいようとしてくれていたのかもしれない……。
そう気付けば、湊真のことがいとおしく感じてしまって。
私は湊真の頭を抱えるように抱き締めていた。自然に体が動いていた。
どれが本当の湊真なんだろう。私が知らない湊真がまだいるの?
私にはこれ以上知る権利はないんだと思う。
でも知りたくて知りたくて、仕方なかった。