私は彼のことが苦手です。
「何、高宮、まだそんなもんつけてんの?」
今までよりも高らかに響いた声に、私も同僚たちも再び涼木さんに注目する。
何かを指摘されたらしい湊真が目線を落として何かを目に映し、口を開く。
「あぁ、コレですか。まぁ」
「もう別れて2年以上経つだろ? そんな指輪はずして、いい加減次の相手見つけろよ」
「仕事に役立つんですよ。仕事に関係ない面倒なやり取りもなくなるし、次の相手を手に入れたらコレはちゃんとはずしますよ」
ふたりの会話ににわかにオフィス内がざわめく。
みんな口々に「別れたって、高宮さん結婚してないってこと?」と話している。
そして私も、完全にキーボードを叩く手を止めてしまった。
湊真が指輪を「飾りもの」だって言ってたことは真実だったってこと?
結婚もしてない?
でも「別れた」ってことは、結婚はしてたってこと?
疑問とともに湧いてくるのは、小さな安堵と……大きな怒りだ。
「そんなのしてたら、捕まえられるもんも捕まえられないだろうが」
「大丈夫ですよ。狙った獲物は絶対に捕まえますから。近いうちにコレも用済みになると思います」
そう言った湊真はまるで私に見せつけるように指輪をはずし、スーツのポケットに入れた。