私は彼のことが苦手です。
 
「じゃあ買い物行くか。夕飯の食料買いに行こうとしてたんだよな? 今日は俺が作るよ。何が食べたい?」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 意味わかんないんだけど!」

「何で」

「付き合ってもないのに、何で結婚になるの……っ」

「好き合ってるからに決まってるだろ。俺は楓花が好き。楓花は俺が好き。それだけで十分だろ?」

「~~っ」


湊真の子供みたいな理論に何も言えないし、悔しいけど否定もできない。

でも、それ以前の問題が残ってる。

表向きは聞きたくないなんて思いながらも、心の奥底では聞きたくて聞きたくて仕方なかったこと。

ちゃんと聞くまでは安心なんてできない。


「……違う。私が聞きたいのはそんなことじゃない」

「俺の渾身のプロポーズを“そんなこと”呼ばわりするのなんて、楓花ぐらいだな」


湊真は呆れたように言うけれど、その表情はどことなくやわらかい。


「……湊真、本当に結婚してないの?」

「うん、してないよ」

「じゃあ、どうしてもっと早く結婚してないって言ってくれなかったの? そんな大事なこと、嘘ついて黙ってたなんて、酷いよ……」

「俺は自分から結婚してるなんて言ってないし、勝手に想像して誤解してるのは周りで、言う必要性を感じなかった。でも楓花にはちゃんと言ったよな? 指輪は仕事を円滑に進めるための飾りものだって。信じろって。結婚してたのは過去の話だよ。確かに、今は結婚してない、とは言わなかったかもしれないけど、実際、今は完全にフリーだし嘘はついてない」

「言わないのも、嘘つくのと同罪! っていうか、結婚はしてたんだ……っ」

「昔の話だって。もうとっくに縁は切れてる。慰謝料も断って関わりもないし、一生関わることはないな」

「……慰謝料を断った?」

「あっちの不貞行為ってやつ。俺のいない隙を狙って、だいぶやらかしてたみたいで、相手側でも問題になってたみたいだけど。女なんて信じられないって実感したよ」

「!」


初めて聞く真実に私は息をのんだ。

湊真は飄々と言っているけど、そんな簡単に割りきれるものじゃないはずだ。

一生を誓って結婚した人に裏切られるなんて……。湊真はどれだけ傷付いたの……?


「女も結婚ももうこりごりだって思ってたけど、楓花と再会してまた好きになって。楓花のことが欲しいって、信じたいって思ったんだ」

「……!」


突き刺さる湊真の熱い眼差しに、心臓が跳ねる。
 
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