私は彼のことが苦手です。
 
「……湊真のことが好きだよ。再会した後すぐ、気持ちは戻ってた。……前よりももっと、好きなの」

「……うん」

「疲れてる姿を見せてくれたのだって、心の中を見せてくれたのかもって、頼ってくれたのかもって、本当はすごく嬉しかった」

「……うん」

「付き合ってた時、大人の湊真のことがすごく好きだった。でも、気付いたの。あの頃は私が子供だったから大人でいてくれたんだよね?」

「……あの頃はさ、出逢いからして楓花の前では自分は大人でいなきゃいけないと思ってたんだよな。それは付き合うようになってからも変わらなくて。そういうのがあの頃はプレッシャーだったのかもしれない。だから、自然消滅してホッとしてた部分も少なからずあった。

楓花と再会した時は自然と素のままの自分で居たいと思えて、背伸びしないで楓花と話せるのがすごく楽しくてさ。楓花は俺が好きになった楓花のままだったし、すぐに楓花に対する気持ちも戻ってた。楓花が今の俺のことを何だかんだ言いながらも支えてくれたことが、すごく嬉しかったんだ。もしかしたらあの頃も俺が素の自分を見せられていれば、ずっと続いてたのかもしれないなって」


「すごく後悔した」と湊真から苦笑が零れる。

私が考えていた通りだったんだ。

でもあの頃の私は自分にいっぱいいっぱいで、湊真を支えたいなんて思えなかったと思う。


「……ううん。前の私は大人の湊真じゃないとダメだったと思う。ただの甘えたがりの子供だったから。でも、今は……今の湊真が好きだよ。いつも大人でいなくてもいい。素のままの湊真でいてほしいし、辛い時には甘えてほしいし、私、もっと本当の湊真のこと知りたい」

「……うん。楓花が知りたいことなら、どれだけでも教えてあげるよ」


湊真の表情にやわらかい笑みが浮かび、「約束」と私の小指に湊真の小指を絡ませる。

無性に抱きつきたくなって湊真と繋がれていない片手を伸ばして湊真の体に抱きつくと、湊真も私の腰に手を回してきて抱き締めてくれる。

そして、小指だけ繋がれていた手はどちらからともなく指を絡ませ合った。
 
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