私は彼のことが苦手です。
「……はぁ。やっと安心できた。楓花が受け入れてくれて良かった」
「そんなに不安に思ってくれてたの?」
「大人を演じてた俺としてはね。それに強引過ぎたかなって、反省してた」
「強引だったのは私のことを想ってくれてのことでしょ? それに、男の子に甘えられることには慣れてるから、心配しなくても大丈夫だよ」
「は? 甘えられることに慣れてるって、何だよそれ」
「んー、元カレが甘えたがりだったの」
「それ、聞き捨てならないんだけど」
不機嫌になった湊真の声に、私は可笑しくて笑う。
本当は元カレという存在は湊真だけ。甘えたがりは弟がそうなだけ。
湊真がちゃんと甘えてくれるように仕向けるための、小さな嘘。
「でも、これからは湊真だけだから安心して?」
「……それは嬉しいけど……何か、これから楓花に振り回されそうな予感がするな。俺、負けそう」
「え、そう?」
「うん。俺は“大人”っていう武器をなくしたわけだろ? 逆に楓花が上に立てるわけで……尻に敷かれそうな気がすごくする……」
「じゃあ、鬼嫁目指そうっと」
「それ、ほんとやめて」
ふたりで笑いながらする何気ない会話が楽しくて、湊真の顔が見たくなって胸の中から見上げる。
すると湊真は眩しいものを見るように笑いかけてくれ、私の唇にやわらかな唇を落としてくる。
心地いい幸せなキス。
しばらくして唇が離れた後、「どんな楓花でもいいから。一生、俺の最高のパートナーでいて」と湊真は言った。