私は彼のことが苦手です。
「……あれ? 楓花、そんな指輪してたっけ?」
「……あ、うん。まぁ」
「一昨日からしてるんだよな」
余計なことを言ってのけた湊真は、私とペアの指輪をしているのだと美紗子に向けて主張するように、私の肩に手を乗せてきた。
美紗子は私の薬指に光る指輪と、湊真の薬指に光る指輪を見比べ始める。
「え? って、あれ? 高宮さんの指輪も同じデザイン……えっ、ウソっ!?」
湊真のこういう自分だけ余裕綽々なところ、ほんと悔しいし苦手。
照れ臭いから付き合っていることに慣れるまではみんなには秘密にしておきたいって言ったのに、わざわざ朝から張り切って指輪をしてまで早速バラすなんて……。
私はその場から去ってくれない湊真の手を払いのけ、オフィス用の笑顔を向けて言葉を放つ。
「コレ、土曜日の夕飯で手を打ちますから、さっさとお仕事に行って働いてくださいね。高宮さん」
「了解。夕飯くらいならお安い御用。じゃ、野瀬さん頼むな」
一切悪意のない爽やかな笑顔を私に向けた後に踵を返して去っていく彼の背中に、私は心の中で舌打ちをした。
まったく、あの人は。
「……ま、待ってよ! 楓花ってば、高宮さんといつの間にそんなことになったのっ? そんな素振り、全く見せなかったじゃない!」
私と高宮さんの後姿を見比べながら、美紗子が私にしがみつくように二の腕を掴んでくる。
興奮している美紗子に目線を戻し、私はいたって冷静に、笑みを浮かべた。
「そのうち話すね。とりあえず、みんなには内緒にしといて?」
「えっ、ちょっと!」
「あ、ほら、始業時間だよ。仕事しなきゃ」
「生殺しなのっ? 気になる~!」
わめく美紗子を横目に、心の中では「ここで話す勇気がなくてごめんね」と私は頭を下げる。
隣で渋る美紗子に「今日も1日頑張ろう」と諭し、私は仕事に取り掛かった。
これから先、何があるかはわからないけれど、湊真と私の間にお互いを思い合う気持ちがある限り、きっとこの関係は続いていける。
今仕事を任されたのも、仕事のサポーターとして信頼してくれている証拠。
誰からの依頼であろうと、受け取った仕事は責任を持ってしっかりこなす。
それが私にできること。
そして、仕事でもプライベートでも、湊真にとって最高のパートナーでいたい。
それが私の在りたい場所。
Fin.