私は彼のことが苦手です。
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しっかり予定分の仕事を終えた私は、今住んでいるマンションに帰宅した。
高校まで過ごした実家を大学入学と共に飛び出した私は、今年で一人暮らし歴8年目になる。
社会人になってからは地元も飛び出し、今住んでいるマンションに引っ越してきた。
エレベータに乗り5階に到着し、自分の部屋へと足を進める。
デザイナーズマンションの割には家賃は言うほど高くはなく、とても気に入っている自分のお城。
玄関先で鍵を取り出そうとバッグの中を探るけど、お目当てのものは見つからない。
「……あれ?」
もしかして今朝出る時に鍵をかけ忘れてしまったのだろうかと不安に思い部屋のドアノブに手を掛けるけど、扉が開く気配は見せず、とりあえず安心する。
ということは、外で鍵を出すことはないし、バッグの中にあるはず。
早く探さないと。
私はその場にしゃがみこみ、バッグを再度探り始める。
ようやくバッグの奥底で手に鍵の感触を捕らえた瞬間、私が一番恐れていたことが起こった。
「……またやってんのか? 懲りないよな」
「!」
背後から飛んできたよく知った声に、私は肩を小さく跳ねさせた。
もう、最悪。タイミングが悪すぎる。
ため息をつきたい気持ちになりながら、手に触れている鍵を握り締め、平静を装って私は立ち上がった。
振り向くとそこには、すらりと背の高いスーツ姿の男がいた。