私は彼のことが苦手です。
手にした鍵を扉の鍵穴に差し込もうとした時、湊真から呆れたようなため息が漏れた。
「お前さぁ、昔以上にアマノジャクになったよなー。昔はもっとかわいかったのに」
「は? 何ですかそれ。意味わからないんですけど」
突然の言いがかりのようなセリフに私は湊真の方を振り向く。
さっきのやわらかい笑みはどこに行ったのか、意地悪に湊真の唇の端が上がった。
「素直になったら? 俺のことが気になってるんだって。この指輪をはずしてほしいんだって」
「っ!」
私を煽るように湊真は自分の薬指にはめられた指輪を見せつけてくる。
「“はずして”と言え」と言わんばかりに。
でも、私はそんなことを言うつもりなんて更々ない。ただ呆れ果てるだけ。
「ほんっと、バカになりましたよね」
「はぁ?」
「あの頃はあんなに……」
大人でやさしくて、カッコ良かったのに。こんなバカみたいな冗談を言う人じゃなかったのに。
「あんなに、何?」
「……別に。早く帰って奥さんに連絡してあげたらどうですか? じゃあ、私はこれで失礼しますね」
オフィス用の作り笑いを向けた私は、これ以上話しかけられる前に部屋に入ってしまおうと、部屋の鍵を開ける。
湊真の視線を感じながらも、湊真は特にそれ以上は何も言ってくることはなく、私は無事に部屋の中に入ったのだった。