後輩


 はあっと、また息を漏らすと不意に頭上へパコッと何かが当たった。


「なーにため息吐いてんの?幸せが逃げてくよ」


 そう言って丸めた数学の教科書を片手にあたしを見下ろしていたのは幼なじみの友香(ともか)だった。


「おはよー、今日は珍しく早いね」
「千咲に数学教えてもらおうと思ってさ……てか、大丈夫?明らかに元気なさそうだけど」
「うーん、ちょっとね、最近いろいろありすぎて」
「いろいろって……ああ、真島先輩のこと?」
「うん、それもある」
「いや、本当にあれはないわ、二股ならまだしも三股とか」
「二股ならまだしもって……二股も十分嫌だけどね」
「そりゃそうだけどさ~千咲の何が不満だったっていうのよ、私にとっては自慢の幼なじみだってのに」
「そんな風に言ってくれるの友香だけだよ」
「もう~千咲はそうやってすぐネガティブになっちゃうんだから。真島のことなんて忘れちゃいな?あんな奴のことは覚えてる価値もない」
「うん、ありがとう。でもそのことについては今はそれほど気にしてないよ」
「そうなの?じゃあ何でそんな今にも死にそうな顔してるわけ?」


 呆れたような表情をしつつも心配してくれる友香の優しさが単純に嬉しくて、あたしは包み隠さず今朝のできごとを友香に話した。

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