後輩
由樹人くんのことは、中学の時に同じ部活の可愛いい後輩がいるんだと何度か話したことがあったので、友香はすんなりと内容を理解してくれた。
そうして、全てを話し終えると友香がふーっと息を吐き出しながら椅子の背凭れに身体を預けて難しい顔をした。
「まあ、何ていうか、千咲が悩んだって仕方ないことではあると思うけど」
「そうだよね……」
「好きじゃないっていうのは本心なわけだし、せいぜい相手に期待させるような言動を慎むくらいのことしか気の使いようがないよね」
「言動を慎む……」
「だって、その気もないのに中途半端に優しくしてあげても可哀想でしょ?」
「そう、だよね」
やっぱり由樹人くんとは暫く距離を置いた方がいいのかもしれない。その方が由樹人くんもあたしのこと早く諦められるかもしれないし。
それに何より、今はもう暫く恋愛はお休みしたい。
真島先輩のことは、あんな最低な人でも好きだったのには違いないしショックだったのも事実だ。
けれど真島先輩が他の女の子といる姿を見た瞬間、自分でも驚くほど胸の奥がスッと冷えていくような感覚がした。
目の前の何もかもを信じたくなくてその場からすぐに逃げてしまったけれど、次の日に真島先輩を問い詰めたら「じゃあ別れようか」なんてあっさり言われてしまって、あたしはただただ呆然とした。
今までの言葉やデート、初めてしたキスも全部崩れ去って、何を信じたらいいのか分からなくなった。思い出せば思い出すほど胸の奥が苦しくて、涙をいくら流してもスッキリなんてしなかった。
そんなことがあって、恋愛にはちょっとしたトラウマを負ってしまったのだ。
もちろん由樹人くんは真島先輩みたいな人ではないだろうけれど、だからといって簡単に好きにはなれない。
だからあたしが今の由樹人くんにしてあげられることは期待をさせないように距離をおくことだけだ。
「友香、明日から一緒に登校しない?」
「え?私千咲より登校するの遅いけど……良いの?」
「うん、いいよ、寧ろその方がいい」
毎朝あたしの登校時間だと由樹人くんに遭遇してしまうから、少しでも顔を合わせなくて済むように時間をずらすことにした。