後輩
「高校生の恋愛なんてそんなもんだろ?浮気だの騒いでたけど、お前だって結局誰でも良かったんじゃん」
「……っ」
違う、全然違う。今はもう真島先輩のことなんてどうとも思ってはいないけれど、ちゃんと好きだった。だから告白もしたし、付き合えた時は本当に嬉しかった。
けど、その気持ちを裏切って浮気をしたのは真島先輩の方だ。それに、由樹人くんのことはただの噂で、付き合ってなんかいないのに……。
全部言ってスッキリしてしまいたいのに、喉の奥に鉛のようなものが詰まっていて声を出すどころかうまく呼吸すらもできない。
あたしはただ、零れてしまいそうな涙を必死に我慢して真島先輩を睨みつけることしかできなかった。
あたしの気持ちを全部否定されて、それなのに泣くことしかできない臆病な自分が、情けなくて悔しい。
「千咲先輩!」
目頭に溜まっていた涙が溢れ出そうになった時、後ろから声がした。振り返るとそこには息を切らした由樹人くんの姿があった。
「何だよ、彼氏のお迎え?ラブラブそうで良かったわ、じゃーね」
そう言って真島先輩はポンと軽くあたしの肩に手を置いてからさっさと改札を抜けて行ってしまった。結局、何一つ反論することができなかった。
「千咲先輩、ど、どうしたんですか……!」
涙目のあたしに由樹人くんが当の本人よりもあわあわと慌てふためいている。
「ううん、何でもない……」
ちょっとだけ、ホッとしてしまった。一週間ぶりに見る由樹人くんはやっぱり何一つ変わっていなかったから。小さくて、可愛くて、健気で、女の子みたいだ。
「千咲先輩っ……あの、何か温かいもの買ってきますね」
由樹人くんはそう言い残してあたしから背を向けると慌ててどこかに行ってしまった。