後輩


「理由を知りたいんですか?」
「………」


 コクリと頷いてみせると「理由なんて、そんなものはないですよ」とあっさり言われてしまった。


「ただ、千咲先輩が泣いてる姿見たら体が勝手に動いてたんですよね」


 そう言って、由樹人くんは少しだけ恥ずかしそうに笑った。こんなに直球でこられてはさすがのあたしも照れてしまう。
 何も言えずに黙り込むあたしに、由樹人くんが不思議そうな表情でどうかしましたか、と尋ねてきた。


「ううん、何でもない……」


 いつもなら由樹人くんの方があたしよりも真っ赤になっているはずなのに、案外ケロッとしている由樹人くんに何となく裏切られたような気分になる。
 由樹人くんはまだ釈然としない顔をしていたけれど、気を使ってくれたのかそれ以上問い詰めてくることはなかった。その代わりに、別の質問を投げかけてきた。


「千咲先輩が俺のことを避けてるのは、それが理由ですか?」


 由樹人くんはさっきまで交わっていた瞳をおもむろに逸らした。


「俺が千咲先輩のことを、その……好きだって言ったから……」
「気づいてたんだね……」
「そりゃ気づきますよ。告白した次の日から、いつも登校時は会ってたのに、全然会えなくなったんですもん」


 そんな些細なことくらいなら気づかれないと思っていたのに、どうやらあたしの考えは甘かったようだ。

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