後輩
「由樹人くんの気持ちは嬉しかったよ。でも、あたしにはそれに答えることができないから避けるようなことしちゃったの。傷つけたならごめんなさい」
深々と下げた頭上から由樹人くんの慌てた声が聞こえた。
「いえ、俺も勝手にいろいろ考えて自分の中で結論づけたりしちゃったので……千咲先輩とおあいこです」
あたしが頭を上げるとふっと表情を緩ませ、由樹人くんは「だけど」と続けた。
「本当に迷惑じゃなかったなら、俺のことを避けるのはやめて下さい。俺が勝手に告白したんですから、千咲先輩は気にしなくて良いんです。それよりも会えなくなることのほうが辛いですから」
「うん、わかった」
誤解も解けてスッキリしたあたしと由樹人くんは、それからすっかりぬるくなってしまったホットココアを飲んで家路についた。
ふと隣を見下ろすと、以前よりも少しだけ由樹人くんの姿が凛々しく見えた。あたしよりも背は低いけれど、ちゃんとした男の子なんだなあと、改めて実感した気がする。
「千咲先輩?」
不思議そうな表情であたしを見上げる由樹人くん。あたしと話す時、いつも由樹人くんはこうしてしっかりと目を見つめてくる。いつものこと、そのはずなのに、何だか心臓がドキリとした。
「どうかしましたか」
自分でも分かるくらいに様子のおかしいあたしを見て、由樹人くんが心配そうに尋ねてくる。
「ううん、何でもない」
そう言って、曖昧に笑って誤魔化した。