後輩
04:もういない
2016Spring
ジリジリと朝から容赦のない目覚まし時計の音で目が覚めた。遅刻をしないように自分で毎晩設定しているものだが、毎朝それを止める度に理不尽な気持ちになるのはきっとあたしだけではない。
それに何だか今日はひどく頭が痛い。寝覚めは悪い方ではあるけれど、こんなに憂鬱なのは初めてだ。
昨日は嫌な夢を見たような気がする。
『どうして先輩が泣きそうな顔、するんですか』
『被害者面とか、うざい』
『俺のこと最初に突き放したのは、先輩のくせに』
ああ、違う。あれは決して夢なんかじゃない。全部、現実だ。なかったことになんか、できないのだ。
「何やってんだろ……あたし」
ベットの上で仰向けになったまま、体がピクリとも動かない。そろそろ準備をして大学に行かなければ、とは思うけど脳内で昨日のことが繰り返し流れていく。
偽善者、都合のいい後輩、罪から逃れたいだけ。由樹人くんはずっと、あたしのことをそんな風に思っていたのかな。だとしても、あたしに釈明の余地はない。
全部自分がやったことで、全部あたしが悪いのだから。
ただ、ずっと嫌われてしまえばいいと思っていたはずなのに、それでも本当に嫌われてしまうと、それがこんなに涙の出るほど悲しいことだとは思っていなかったのだ。
あたしはどうしようもなく弱虫で、最低のクズだ。
だからあたしはせめて、由樹人くんの幸せを願えるような女でありたいと思った。それが今の自分にできる精一杯の罪滅ぼしだから。
鉛のような体をようやく動かし準備をして家を出る。
いつも通りの朝のはずなのに、重いタメ息が漏れた。スマホで適当な記事を読みながら電車に乗っても、お気に入りの音楽を聞きながら歩いていても、頭の中では昨日の由樹人くんとの会話が離れない。
それでも、きっともう由樹人くんに会うことはないんだろうと思うだけであたしの心はどこかほっとしていた。
もう高校の頃みたいに自分が自分でなくなるような惨めで苦しい思いをしたくない。目を背けたくなるような自分の黒い部分を見つめなくて済む。
そう、思っていた。今朝までは。