後輩
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午前の講義が終わり、スマホを見ると友香からメッセージが来ていた。内容はお昼を一緒に食べようというものだった。
いつもの学食で待っているとも書かれていたので、あたしは寄り道をせず真っ直ぐに友香のもとへ向かった。
長方形のテーブルがいくつも横たわる学食に着くなり、入り口付近にあった自販機で缶コーヒーを1つ買って中に進むと、ちょうど友香がカウンターから生姜焼き定食をテーブルに運ぼうとしているところだった。
「友香!」
声をかけると友香はいつもの調子で「千咲ー聞いてよー」とあたしの元までやってきた。
「どうしたの?」
「昨日の合コンだよ!最後に結局なんかやたらテンション高いあの高校生の子とくっつけられたじゃん!覚えてるよね!?」
「ああ……」
確か、由樹人くんの友達だと言っていた安くんという子に何だか無理やり由樹人くんと一緒にさせられてしまったのだ。
その時の友香は由樹人くんと帰りたがっていたのだけれど、安くんの勢いは凄まじくて一言も返す隙がなく気がつけば……。
昨日の出来事がまた脳裏をかすめて不意にため息が落ちた。
「どうした?」
友香が心配そうに顔を覗き込んできたので慌てて笑顔を張り付ける。
「ううん!それで、安くんとはどうだったの?」
「それ、聞いちゃうの?」
「……ダメだった?」
「見ての通り」
「アハハ……」
テーブルに腰をかけ友香は「そんなことより!」と続けた。
「例の高校生と一応連絡先交換したんだけど……」
「うん、それで?」
「千咲、ダブルデートしない?」
「え、ええ!?」
いきなりすぎる会話の飛躍に思わずぶんぶんと首を横に振った。
そんなあたしに友香は食い下がる。
「そんなこと言わないでさ、ね!」
「む、無理だよ!そもそも昨日の合コンだって人数合わせで行っただけだし……」
「お願いします千咲様!」
両手を合わせて必死に頭を下げてくる友香。
「分かったよもう……」
観念したあたしは仕方なく了承した。とはいえデートなんて久々だし、それでなくてもダブルデートは一度もした事がない。
それに、安くんが連れてくる相手には大体の想像がつく。
「あのさ、それで千咲にお願いがあるんだけどー」
「もうこうなったら何でも聞くよ」
「じゃあ言うよ?明日のデート、由樹人くんが来るからさ、千咲にはあのうるさい方の高校生を捕まえててほしいの!お願い!」
友香のお願いにしても想定内だ。
それに、由樹人くんだってあたしと一緒に過ごすのは苦痛でしかないだろう。友香が幸せになるならそれでいい。
その手伝いなら何だってするべきだし、それが由樹人くんの幸せにも繋がるのだとしたらもう断る理由なんかない。あたしは昨日、そう誓ったから。
「わかった、安くんのことは任せて」
「まじ!?ありがとー千咲!」
笑顔であたしの手を握る友香をどこか遠くに感じていた。