後輩
あの頃は可愛くて女の子みたいな由樹人くんという後輩が本当に大好きだった。もうあの頃の由樹人くんはいないと分かっているのに、その姿を今でも追いかけてしまうほど。
あの頃に戻りたい。そう思ってしまうあたしはわがままなのかもしれない。
けれど由樹人くんの言うような、手のひらで転がる都合の良い後輩を求めているわけじゃない。
あたしにとって大事で大切だったあの〝後輩〟という存在が無かったことになるのが耐えられないのだ。
あの時告白してくれたことも、ぬるくなったココアを一緒に飲んだことも、美術室で一緒に過ごした日々も、全てがあたしにとってかけがえのないものだったから。
そんなことを今更思ったところで全てを壊したのは他でもないあたし自身なのだ。由樹人くんのことを沢山、傷つけてしまった。
もしもあたしに罰を下した神様がいるのなら、教えて欲しい。あたしはこれから、どうすればいい?どうすれば、あの頃の由樹人くんの傍にいられるのでしょうか。
答えはずっと、見つからないままだ。
「千咲さん?」
気がつけば安くんがあたしの顔を覗き込んでいた。
慌てて「何でもないよ!」と答えたけれど、安くんはどこか納得のいかない表情で言った。
「千咲さんと由樹人って似た者同士っすよね」
「え……あたしと由樹人くんが?」
「何も言わない癖に感情を隠すのが苦手なとことか」
「ごめん……」
「言いたくないなら無理には聞かないっすけど。由樹人のこと、俺なんかに任せるより千咲さんの方がどうにかしてやれるんじゃないっすか?」
「そんなこと……」
「ありますよ」
「……ないよ、だってあたし由樹人くんに嫌われてるもん」
「何であいつが嫌うんすか?確かに無愛想なところはあるけど、理由もなしに人のことを嫌うような奴ではないと思います」
「理由ならあるの……あたしが、由樹人くんを傷つけたから……」
目頭がじわりと熱くなって深くうつむいた。
合コンで再会したあの日も、どうしても耐えられなくて涙を流したあたしに由樹人くんの方がずっと泣き出しそうな顔をしていた。
『どうして先輩が泣きそうな顔、するんですか』
今もずっと、そう言われているような気がして涙を流すのが怖い。