後輩
ポツリと、テーブルへ置いていた手の甲に水滴が落ちた。涙が落ちてしまったのかと慌てて頬を拭ってみてもそこには涙のかけらすらない。
自然と熱くなっていた目頭がすっと消えて天を仰ぐとグレーの分厚い雲が空を覆っていた。
「やば、雨降ってきましたね」
安くんが慌ててスマホを手に取った。
「友香と由樹人くん……大丈夫かな」
「とりあえず連絡とって……あ、充電死んだ」
「え!?」
「まあまあ、落ち着いて下さいよ!ほら千咲さんのスマホがあるじゃないっすか」
「あ、そっか、そうだね」
カバンの中からスマホを取り出し、友香とのトークルームを開く。雨降ってきたけど大丈夫?とりあえずごうりゅ、とメッセージを打ったところであたしのスマホの電源も落ちてしまった。
「あ……」
昨晩、今日のデートのことを色々と考えすぎてスマホの充電を忘れていたことを今更思い出してしまった。
「ちょ、千咲さん!?」
「アハハ……あたしの充電もなくなっちゃった、えへ」
「えへ、じゃないっすよ!2人して充電死ぬとかあります!?」
「あったねえ」
「あっちゃいましたね、ほんと!」
安くんのツッコミが炸裂したところでどうしたものかと2人で考えてみた。けれどこの広い遊園地で再会する確率は低いだろう、ということになってしまった。
「とりあえず傘買いにいきますよ俺」
「そうだね、じゃあたしはちょっとそこらへん探してみる」
「でも雨が……」
「まだ小降りだし、ちょっと探すだけだから。すぐにまたここへ戻ってくるよ」
「分かりました」
「傘、4人ぶんお願いね」
「はい!任せて下さい!」
安くんが傘を買いに行き、あたしも友香達が向かった方角へ足を進めた。