後輩


「由樹人くんって安全だけど不安定なんだよねって、そう言われた……フラれた相手に」
「どういう意味?」
「俺もそう聞いた。そしたら、自分の気持も分からないで安全を振りかざしてる感じだって。俺は安全だよ、だから俺の不安定さを埋めてくれって、そんな風に見えるんだってさ」
「まったく意味が分からん」
「俺は何となく分かるよ。自分のことだからかもしれないけど、俺ってきっとすごい不安定なんだろうなって」


 フラれた時の言葉が今でも俺の心を抉るのは、きっと後ろめたいからだ。あまりにも正論過ぎて言い訳もできやしない。

 今でも、俺の心に隙間をつくる。中2のあの頃の苦い思い出と先輩の姿がまだ記憶の中をゆらゆらと漂って、ふとした時に、俺の心臓に針を刺してくるんだ。チクッ、チクッ、と。
 そうして俺はまた、あの頃の自分に戻ってしまったかのような感覚に陥る。
 だから、埋めたい。黒く塗りつぶして、隙間を埋めてしまいたい。もう、痛みも感じなくなるくらいに。
 記憶に蓋をして、二度と出られないように。不安定な俺を曝け出さなくて済むように。


「よっし!よく分からんが由樹人、俺に任せとけ!」
「え?」
「俺がお前の傷を埋めてやるから!」
「……どういう意味っすか」
「まあまあ、楽しみにしとけよ」


 明らかな俺とのテンションの差にも気づかず、安は何やらスマホを弄り始めた。悪い予感しかしない。かと言って安が俺の話をまともに聞くとは思えないし。
 これから起こるであろう事件に自然とため息が漏れた。
 やれやれという気分で窓の外を見ると、満開の桜があの日の雪のようにハラハラと舞い、地面へ降り積もっていった。
 また、胸の奥がチクッと傷んだ。

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