呼吸(いき)するように愛してる
匠くんへの想いだけで続けられる程、『お仕事』は甘くないと思う。

みちるちゃんは、市内に住む誰もが知っているような、一番大きな工場の事務員として就職した。

県外の大学に進学していた、みちるちゃんの彼氏リュウさんも、卒業後は地元に戻り就職していた。

二人は、めちゃめちゃラブラブなのだ。

あんまり言うと、みちるちゃんが固まってしまうけど。

ヒロくんは、大学三年生。将来、『先生』を目指しているのだ。

昨年から、教育実習に行く準備なんかも進めているらしい。

ヒロくんが「先生」なんて!なんか、笑っちゃうけど。

でも、明るくて、他人の悩みも真剣に考えてくれるヒロくんは、きっといい先生になれると思う。

みちるちゃんもヒロくんも、前を向いて、少しずつでもちゃんと進んでいる。

私は、どうだろう?ちゃんと前を向いて、進めているのだろうか・・・



*****



──四月、私の社会人としての生活が始まった。

「朝倉 美羽です。よろしくお願いします!」

「戸崎 知花(とさきちか)です。こちらこそ、よろしくね!」

知花さんは、今年二十五才。私と同じで短大を卒業して、ここフジノに就職したそうだ。

明るすぎない色の長い髪に、ゆるくウェーブがかかり、片側にまとめられている。決して濃いメイクではないのに、顔のパーツ一つ一つに、きちんと手がかけられている。クルンと自然に上がったまつ毛とか、艶プルの唇とか。

フジノには制服がないから、仕事中も私服になる。

ヒラッとしたスカートに、きれいな鎖骨が見えるカットソー。甘すぎず、それでいて女の子らしくて。

とにかく全部が、知花さんに似合っている。女子力の高い人だと感じた。

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