呼吸(いき)するように愛してる
私がフジノの面接を受けようと思ったのは、直感のようなもの。

四つ葉銀行が気になりつつ、就職試験を受ける決心もつかない。時間ばかりが過ぎていき……そんな時、たまたま目に入ったのが、フジノの求人。

「ここにしよう!」

求人の詳細を見る前に、そう思った。

フジノには、匠くんとの思い出がある。……仕事は甘くないとか言いながら、ここも匠くん絡みでした。ごめんなさい。

フジノは、私達が通った中学校の近く、通学路の途中にあるのだ。

フジノの事務所の出入口がある、道路に面した所に、わずかだが文房具の販売スペースがある。中学・高校の頃は、たまに買い物に来ていた。

たくさん種類が置いてある訳ではないが、新商品とか、他のお店であまりみかけないような文房具やキャラクターの商品が置いてあるような時があって、定期的に覗いていた。

これも就職してから、知花さんに教えてもらったのだが。

最初は事務所に販売スペースはなかったそうだ。ある日、文房具を買いに来た中学生がいて。その時は「ごめんね!」と謝って帰ってもらった。

それ以降、そんな事が何度かあり……

「せっかく通学路にあるんだから、中学生にも買っていただきましょう!」

と、専務が言い出したそうだ。それから取引先に交渉して、事務所に今のような販売スペースが作られた。

どんな物を置くのかは、専務と女子社員の秘かな楽しみになっているそうだ。

匠くんが、中学一年、私が年長さんの時。あの七夕祭りの短冊の件で、私がみんなに心配と迷惑をかけた夏休み。

私はもう一つ、匠くんにわがままを言っていた。

フジノに、その当時の私が大好きだったキャラクターのくじが置いてあったと、匠くんが教えてくれた。

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