呼吸(いき)するように愛してる
一回、百円。四月から半年間の期間限定だった。シールから、くじオリジナル商品のトートバッグまで、ハズレくじ無しだった。どこのお店でも取り扱っていた訳ではなく、私が知っていたのは、たまに買い物に行く大型ショッピングセンターの中のおもちゃ売り場だけだった。

夏休み前にその事を教えてもらって、いつもの事だが、考えるより先に私の口から言葉がを飛び出ていた。

「ほんと!?匠くん!私、くじ引きしたいっ!連れてって!!」

匠くんは私の顔を見て、少しだけ考える。私はウルウルとした瞳で、期待を込めて匠くんを見つめた。

「わかった!僕が夏休みになったら、連れてってあげる」

「ありがとっ!」

私は、匠くんに抱きついた。

お母さんに、匠くんとその事を話したら「遠すぎる。匠くんに迷惑かけるから、ダメ!」と言われた。

だけど、匠くんがきちんと話してくれて、私も一生懸命お願いして、渋々お母さんが許してくれた。

夏休みのある日、麦わら帽子を被り水筒を下げ、百円玉二枚が入ったお財布を入れたポーチを持った私は、自転車を引く匠くんと、フジノへ出発した。

私が疲れたら、匠くんの自転車に乗せられ、匠くんが引いてくれた。

くじ引きは楽しみだったけど、一番は匠くんと一緒にお出かけをしたかった。

私は嬉しくって、いろいろおしゃべりをして、歌も歌った。

今から思えば、本当に私はわがままだった。暑い夏、まだしっかり歩けない私を連れて、片道二キロ以上の道を匠くんは歩いてくれた。

匠くんと一緒だから、グズッたりはしなかったけど、匠くんは大変だったよね。

いつも通り、匠くんは微笑んでくれていたけど。

実を言うと、フジノでくじ引きをした記憶は曖昧だ。

二回くじをして、シールとノートが当たったと思う。……くじ引きよりも“匠くんとのお出かけ”の方が、私にとっての楽しい大切な思い出だから。

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