呼吸(いき)するように愛してる
そして……

とうとう匠くんが、帰ってきたのだ!!匠くんの家、私のお隣に!

四月の異動で、匠くんは本店に異動になった。四つ葉銀行の本店は、私達が住む市内にある。車で、十五分くらいかな?

四月に入ってすぐ、その事をともママから教えられた時、口に手を当て、何とか叫ぶのを堪えた。

ヤッターー!!匠くん今度こそ本当に、帰ってくるんだよねっ!?

無言で喜びを噛みしめていると、ともママが私の顔を覗きこむようにして言った。

「それでね、美羽ちゃんに、お願いがあるんだけど……匠がこっちに帰ってきたら、匠の世話を頼めないかな……?」

「匠くんの、世話……?」

私が小首を傾げて訊くと、ともママはニッコリと笑って話し始めた。

ともママと聡くんは、ここから車で二時間はかかる山あいの町に、喫茶店を開いた。

以前、カフェの方でいろいろお世話になった秋山(あきやま)さんて方が住んでいる町だ。

三年位前に、秋山さんの奥さんの病気がわかった。末期ガンだった。残り少ない時間を二人でのんびり過ごす為に、秋山さんの生まれ育った山あいの町に戻ったそうだ。

一年も経たないうちに、奥さんは亡くなってしまい、すっかり生きる気力を失ってしまった秋山さん。

そんな秋山さんを心配して、度々秋山さんのいる町を訪れていたともママと聡くん。

秋山さんは、どんどん元気をなくしていくばかりで……

秋山さんをどうやって元気付けたらいいのか考えていたともママ達は、今は営業していない一軒の喫茶店が目に入った。

私が住んでいるこの県は、人口が減っていっている。その中でも、この山あいの町は、さらに過疎化が進んでいる。

お年寄りが中心となったこの町で、喫茶店を開いたら、少しは町に活気が戻らないだろうか?

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