呼吸(いき)するように愛してる
…いろいろ考えてしまう事はあるが、私のキーケースに付けた匠くん家の鍵を見ると、自然と顔がニヤけてしまう。

彼氏の一人暮しの部屋の鍵を渡されると、こんな気持ちになるのかな……?

私は頭をブンブンと振った。イカンイカン!勘違いしては。

一人暮しの部屋じゃなくって家の鍵だし、鍵を渡してくれたのはお母さんだし、そもそも匠くんは“彼氏”じゃないし……

「ハァ~~……」

長い長い溜め息をついた。…私の幸せ、だいぶ逃げたかも……

そう思いつつも……浮き立つ心は、抑えられなかった──


四月の最初の土曜日の午後、とうとう匠くんが、帰ってくる!!

午前中に住んでいた部屋を片付けて、午後一番に引っ越し業者のトラックに荷物を積み、匠くんも自分の車を運転して帰ってくる。

ともママからスケジュールを聞いた時、そんな簡単に片付くものなのか心配をしたけど。

銀行の寮はワンルーム程の部屋だし、電化製品も元々備え付けられていたから、荷物も通常よりも少ないらしい。

それに、銀行員に『転勤』は付き物だから、荷物を増やさないように匠くんも意識していたそうだ。

私の『匠くんお世話係』としての初仕事も、引っ越しのお手伝いだ。

朝から匠くん家で、匠くんの部屋を掃除したり、ベッドのシーツを代えたりしている。

荷物が入ったら、また掃除機をかければいいよね……

できるだけ、関係のない所は触らないようにしていたけど、新しいシーツを出す為に匠くんの部屋のクローゼットを開けたり、部屋を掃除していると、何か、“彼女”というか“奥さま”気分?

……フフフ。どうしても、頬が緩んでくる。

ハミングしながら、私にしては珍しく要領よく動いていると、午前中で匠くんを迎える準備ができた。

隣の自宅に戻り、お母さんとお昼の準備をする。今日は、たまたまみんながお休みだった。

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