呼吸(いき)するように愛してる
匠くんが通話を終えて、小さく息を吐いた時には、私の瞳にはじんわりと涙が溜まっていた。

目の奥に力を入れ、涙を溢さないようにがんばる。

「匠くん、私がいたら迷惑だった?」

私の言葉に、ハッ!としたように私を見る匠くん。

もう、こういうのはやりたくないんだけど……と思っても、涙は引っ込まず、ウルウルとした瞳で匠くんを見つめてしまう。

「小さい頃は、たくさん迷惑かけたけど、私も二十才を過ぎた“大人”だよ!家事だって、一通りできる。匠くんのお手伝いだって、ちゃんとできるよ!」

匠くんを見つめながら、必死に訴えた。

匠くんの眉間のシワがだんだん浅くなり、眉尻を下げて笑う。

「美羽の事、迷惑だなんて思ってない。……ただ、ちょっとびっくりして。昨日、母さんと話した時も、何も言わなかったし。……俺の部屋を掃除してくれたのも、美羽だって聞いた。ありがとう!美羽」

「どういたしまして!じゃあ、私も引っ越しのお手伝い……」

「それは!本当に一人で大丈夫!さあ、片付けるか!この土日で終わらせたいからね」

わざとらしくパン!と手を叩いて、二階に向かおうとする匠くん。

私も、ついて行こうとしたら、両手を前に出され、押し止めるようにされた。

「美羽は、充分にしてくれたから!お疲れ様!」

「どうどうどう」とでも言っていそうな匠くんの両手の動きに、思わず立ち止まり、顔をしかめる。

立ち止まった私に匠くんは薄く笑い、ピュン!と二階に駆け上がった。

何よあれ!?あの態度はどう見ても、私が手伝うのは迷惑だ、と言っているでしょっ!?

手伝わせてもらえなかった苛立ちと寂しさで、フン!と鼻を鳴らしてリビングのソファーに座った。

しばらくして落ち着いてくると、匠くんがああいう態度をとるのも、仕方ないのかなぁと思えてきた。

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