呼吸(いき)するように愛してる
私の右斜め前に、匠くんが立つ。これから、サイドや前の方を乾かしてくるれのだろう。

「美羽……」

呟くような匠くんの声。それまでのテンションと違うので、少し不思議に思いながら、匠くんを見上げた。

「ん?」

やっぱりそれまでと違う、少し困惑したような顔で、匠くんが私を見ていた。

「っ!!??」

と思ったら、匠くんが不意に屈んで、私の頭に顔を近付けて、動きを止める。

私も、予想外の匠くんとの接近に固まってしまう。

匠くんはそのまま顔の位置をずらして、今度は私の首筋あたりで、動きを止めた。

ちっ、近いっ!!……近すぎるっ!!

私が、何の躊躇いもなく匠くんにまとわりついていたのは、小学校の低学年まで。

匠くんが大学進学の為に、ここを離れてからは、ゆっくり会って会話することもなくなった。

そっ、それが、いきなりの急接近に、私の思考も身体もピタッ!と動きをとめてしまった。

気が付けば、私は呼吸までも止めていた。

「美羽」

私の首筋の近くで、匠くんが私の名前を呼んだ。

「っ!!…ん?」

匠くんの柔らかな低い声が間近で響き、匠くんの息が、微かに首筋にかかる。

思わず声を上げそうになったのを、 なんとか堪えた。

そっ、そんな所で、喋らないでほしい~!

「前から、ちょっと気になってたんだけど……」

そう言うと匠くんは、そのまま大きく息を吸った。

だから、そこから、離れてほしい~!

背筋がゾワゾワとして、何かが這い上がってくるようだ。『寒気がする』のとは、また違う初めての感覚に、私は戸惑いを感じた。

ようやく匠くんが、身体を起こす。

「美羽から、俺と同じような匂いがするんだよ」

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