呼吸(いき)するように愛してる
「小さい時からの経験で、男の事をとりあえず警戒はするけど、本当に怖い思いをしていないから、すぐに相手を信用する。君は隙だらけだから、今、こんな状況になっている」

須賀さんが人差し指で、私の頬を撫でた。顔を背けるが、身体は固まって動かない。逃げなきゃ!そう思うのに、須賀さんに言われた事が、頭の中でグルグルする。

「美羽ちゃん、ちゃんと付き合った事ないんだよね?じゃあ、経験ないよね。ファーストキスもまだかな?…かわいそうだから、今日はこれで許してあげる」

悪い予感がして、ハッと顔を上げた。須賀さんの両手で、両頬を挟まれてしまった。

動けない!!ニヤリと、唇の片端を上げて笑った須賀さんが、顔を近付けてくる。

ダメ!!私はギュッ!と目を瞑って、顎を引いた。

額に温かくて柔らかなものが押し付けられた。離れたと思ったら、今度は頬に。

鼻がツーンとして、目の奥がジンと熱くなる。

どうして?どうしてこんな事……!

須賀さんの両手が私の頬から離れて、ようやく私は、動けるようになった。

須賀さんをキッ!と睨んで 、両手で須賀さんの胸を押した。とっさに、あまり力が入らなかったのが悔しい。

須賀さんは、少しよろけただけだった。

「帰ります!」

バッグを掴み、須賀さんを避けるように立ち上がった。

「美羽ちゃんの片想いの相手は、栗原主任だよね?」

確信をもった須賀さんの声に、私は動きを止めてしまった。

「最後に、美羽ちゃんにいい事を教えてあげる。うちにお節介な上司がいてね。取引先との見合い話を勧めてくるんだ。俺、まだ二十四だぜ?」

呆れたように笑った後、須賀さんは続ける。

「『まだ仕事に集中したい』と断ったら『君も断るのか』て。二年位前に、栗原主任にも見合いを勧めたら『結婚を約束した人がいる』と断られたって。…プライバシーも何もあったもんじゃない」

< 177 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop