呼吸(いき)するように愛してる
念のため、赤い車の方からそっと近付いていく。私、どこまで近付くつもり……?

その時、空き地のすぐ隣、匠くんの車が止まっている側にある家の明かりが、パッとついた。

匠くんの車の車内も明るくなり、運転席や助手席が見えた。

抱きあっていた……匠くんが、女の人と抱きあっていた……

頭のてっぺんから、強い衝撃を受け、それが一気に全身を突き抜ける。雷に打たれたような感じ?

あんなに私の意思に反して動いていた両足が、ピタッと動きを止めた。

もう、ダメだ……これ以上は、見ちゃいけない!!

そう思うのに、足は動かず、目を閉じる事もできない。目を見開いたまま、車内の抱きあう匠くんを見つめる。

匠くんの胸に顔を埋めていた女の人が、顔を上げた。

……美里さん、だった……やっぱり、というか……そうだよね……

美里さんは顔を、少し歪めているようで。……泣いているの?…そんな顔も、きれいだけど。

そう思ったら、私の足がようやく動きだす。二~三歩後退り、踵を返す。そこから、途中で遮断されていた血液が全身を巡ったように、一気に駆け出す。

運動不足だとか、息が苦しいとか、そんな事はどうでもよくて。ただひたすら、足を前に出す。

知らない場所だったらきっと、また迷子になっていたに違いない。

足はガクガク、全身で息をするように身体が上下に動く。自宅が見えてきて、グッと駆けていたスピードが落ちる。

深呼吸を何度もして、呼吸が少し落ち着いたところで、スマホを取り出す。

タップして、みちるちゃんに電話をかける。

『もしもし』

何度かコールして、みちるちゃんの静かな声が耳に響いた。

「っ!…みちるちゃん……今から、みちるちゃん家に行ってもいい?」

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