呼吸(いき)するように愛してる
それをごまかすように、強めに匠くんを問い詰めた。

「あれは、抱きあってたつもりはなくて!……兄貴の気持ちがわからないって泣く美里を、宥めているうちにあんな感じになってしまったっていうか……」

要お兄ちゃんが、県外の専門学校に進学した時に、美里さんとお別れしたそうだ。本当はずっとお互いを思い合っているんだけど、将来のそれぞれの夢の為には、一緒にいられない。でも離れられなくて、何年も中途半端な関係が続いているそうで。

いつも優しく微笑んでくれる要お兄ちゃん。きれいで色っぽくて、同性から見ても憧れてしまう美里さん。

私から見れば、大人の余裕すら感じる二人なのに……『恋する気持ち』は、難しい……

「それとね、匠くん。……お誕生日プレゼントのバラの花束なんだけど……」

早く本当のところを知りたいような、恥ずかしいような……複雑な気持ちで、つい言いよどんでしまう。

匠くんから目線を逸らし、膝の上に置いた自分の手を見る。

「十六才のお誕生日からプレゼントしてくれていたバラの花束。お花の色や本数が変わったのは、ちゃんと意味があった?」

一気に言って、膝の上の両手をギュッ!と握った。

しばらく間があって「美羽」と匠くんが呼んだ。私が小さな頃から変わらない、もちろん匠くんは声変わりをしているから、まったく同じではないんだけど。

優しい響きは、変わらない。匠くんが呼ぶ自分の名前が好き。嬉しくて、愛しくて、せつなくて、心が震える。

心臓が、キュッ!となる感じを、久々に素直に受け止める。

ゆっくりと顔を上げて、匠くんを見つめる。変わらない、匠くんの微笑み。

「美羽は、気付かないと思ってた」

「うん、気付いてなかった。さっき、みちるちゃんに教えてもらったの」

「そっか……」

「小さめな白いバラの花言葉は『恋をするのは若すぎる』。これが、匠くんの想い?」

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