呼吸(いき)するように愛してる
匠くんは私から目線を外し、どこか遠くを見るような目をした。

「美羽が高校に入学した四月、偶然、セーラー服を着た美羽を見かけた。……四月の風を受けながら歩く美羽は、本当にきれいで。美羽の背中に、名前の通りのきれいな白い羽が見えた気がした」

「匠くん……」

知らなかった。匠くんの母校でもある東高のセーラー服姿、匠くんにも見てもらいたかった。だけど結局、制服姿で匠くんに会える事はなかった。

「就職を地元に決めた時から、自分の気持ちは決まっていたはずだったから。いつか美羽に、自分の想いを伝えるつもりだった」

匠くんが、フッ…と少し自嘲気味に笑った。

「俺は、どこかで自惚れていた。美羽に自分の気持ちを伝えれば、きっと美羽もそれに応えてくれると思ってた」

「“自惚れ”じゃないよ。だって本当に、私は匠くんの事が、ずっと大好きだったもん!」

「ありがとう、美羽。……俺は急に、怖くなったんだ。これから新しい世界で、様々な人にも出会う美羽。俺が想いを告げる事で、美羽のいろんな可能性を潰す事になるんじゃないか。美羽が、高校生の間にしか経験できない事から、遠ざけてしまうんじゃないかって……俺はまた、美羽から逃げ出した」

「また……?」

「二十歳まで。美羽が成人する二十歳まで、待とうと思った」

私の呟きが小さすぎたのか、匠くんはその問いには答えてくれなかった。

「高校三年間は白いバラで、卒業してピンクのバラになったね」

「うん。あと一年、俺も待つのがちょっと辛くなってきていた。誕生日のバラの花束を注文しに花屋に行ったら、ピンクのバラがすごくきれいで。白いバラには、簡単に触れない感じがしたのに、ピンクのバラには、思わず触れてた」

バラを見て、私と匠くんが同じような事を感じていた事にびっくりした。私は匠くんの心、無意識のうちにでもちゃんと受け取っていたのかも……

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