呼吸(いき)するように愛してる
「匠くん、他の定食も食べたい!また来たい!」

「ああ、また来よう」

と、次のお願いまでしてしまった。

「ごちそうさまでした!おいしかったです!」

会計をしてくれた奥さんに、そう声をかける。

「ありがとうございました。またいらしてくださいね」

優しい笑顔でそう返されて、ほっこりと暖かい気持ちになった。

匠くんの希望で、本屋さんに寄る。結局、一時間近く滞在して家に帰った。

本屋さんから家までは、十分程。すぐに着いてしまう。

もっと、匠くんと一緒にいたい!

……でも明日は仕事だし、匠くんは寝不足のうえに、昼間は野球の試合に出ていた。

野球の試合の後には、いつも“反省会”と称した飲み会があるそうだ。

さすがに匠くんは飲めないけど。「彼女が待ってるから」と、反省会に出席せずに帰ってくれたのだそうだ。

離れていた間、匠くんが私の事を想っていてくれた事がすごく嬉しかった。

だから……匠くんの事、しっかり休ませてあげようと思うのに。

匠くんの車から降りて、このまま匠くん家には寄らずに帰ると告げたのに。

私の両足は、ノロノロとしか動かない。

「美羽」

匠くんに呼ばれて俯けていた顔を上げれば、私の前を歩いていた匠くんが、振り向いて立ち止まっていた。

見つめあい、私と匠くんの視線が絡んでいく。これまでは、この視線に戸惑い逃げていたけど……

匠くんの顔が近付いてきて、私は目を閉じた。

抱き寄せられ、唇が重なる。私も匠くんの背中に手を回す。

何度か触れるだけのキスをした。私が薄く唇を開くと、匠くんの舌が口内に入ってきた。何度か優しく私の舌が撫でられ、軽くリップ音がして、匠くんの唇が離れた。

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