呼吸(いき)するように愛してる
一人でブツブツ言いながら、キッチン、ダイニング、リビングをウロウロする。

「匠くんが、帰ってきてから訊けばいいのか……」

とりあえず落ち着こうと、リビングのソファーに座ったとたん、玄関の方から「ただいま!」と、匠くんの声がした。

「っっ!!うそっ!もう帰ってきた……」

いつもだったら、匠くんの車が家の敷地に入ってきたら音で気付くのに、今日は全く気付かなかった。

「どうしよう……心の準備が……」

きっと、どのタイミングで匠くんが帰ってきても、そう思ってしまうのだろうが……

とりあえずソファーから立ち上がったが、どうしていいかわからず、そのまま立ち竦む。

匠くんの足音がして、リビングの扉がやけに大きな音をたてて開いた。

「美羽、ただいま。…あんまり静かだから、一瞬美羽がいないのかと思った」

「おかえり、匠くん」

薄く笑う匠くんに、私は若干ひきつった笑みを浮かべて、そう返すのがやっとだった。

「……美羽?」

私を見つめて、ツカツカと匠くんが近付いてきた。

『何?』ソファーから立ち上がったままの私は、後退る事もできず、ただ匠くんを見つめた。

私の前に立った匠くんが、右手を私のおでこにピタッと当てた。

「熱は……なさそうだけど……顔は赤いし、涙目になってるし。美羽、どうした?どこか調子悪い?」

「・・・」

私に熱がないのを確認した匠くんの右手が移動して、人差し指の背で、私の左頬をスリスリと撫でた。

匠くんが触れている所から、さらに熱が上がり、全身に広がっていく。やっぱり私には、思っている事をうまくごまかすなんて、無理なんだ……

「大丈夫だよ、匠くん。元気だよ!……それより匠くん。お風呂入る?」

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